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読了報告さくいんコーナー
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2037'01'01(Thu)00:00 [ 同人誌・web小説の感想 ] . . TOP ▲
【読了報告】要崎紫月『マトリョーシカの夢』
要崎紫月さん『マトリョーシカの夢』を読みました。
第0回静岡文学マルシェの戦利品です。

ミッション系女子校の教師が生徒を殺したと告白する。
けれども、そんな生徒は実在しておらず……という奇妙な事件。

お話はホラーとミステリが融合した雰囲気でしたが、私が冒頭の惨殺シーンで連想したのは、映画の「チャーリーとチョコレート工場」でした。
それぞれ違った方向に意地悪で自己中心的な悪玉の子どもたちが登場して、チョコレート工場で酷い目に遭う(婉曲)んですが、「何もそこまでしなくても……」という「罰しすぎ」なあの感じ。
殺される少女たちも、それぞれに大きな欠点があるけれど、なぜこうも酷く殺されなければならないのか……というその真相(らしきもの)が、「犯人」たる佐々木真知子の辿った末路ゆえに重く響きました。
その一方で、無邪気に幸せになれる三島のような人間の存在が明るくも残酷で、より闇を色濃くしていて印象的でした。

2019'05'18(Sat)22:13 [ 普通の記事 ] . . TOP ▲
【読了報告】らし『喪失ときに騒々しく』
らしさん『喪失ときに騒々しく』を読みました。
テキレボ8の戦利品です。

普段あまりツイノベは読まないのですが、装丁がめちゃくちゃ綺麗だったのでどうしようもなく惹かれました。
実体験として、140字で書くとなると、ともすると梗概みたいなものになってしまったり、文字を無理に削って味気ないものになってしまったりするんですが、らしさんのツイノベは現実と空想のはざまをゆったり自由に漂っていて、かと思えば140字よりもっと少ないわずかな文字数でぐさっと(ぶすっと?)刺してくるようなものもあって、手のひらサイズのご本にたくさんの世界がきらきらひしめき合っていました。
お話は少し寂しさを感じるものが多めだったと思いますが、もしもこれから私がどんな狭い家に引っ越したとしても、この小さなご本を大事に抱えていけるくらいの広さはあるだろうな、と思うとなんだかうきうき嬉しい気持ちです。
2019'05'13(Mon)23:33 [ 普通の記事 ] . . TOP ▲
【読了報告】藍間真珠『さきわけ、さきがけ』
藍間真珠さん『さきわけ、さきがけ』を読みました。
文学フリマ東京(2019年5月)の戦利品です。

エーメリ君!!!!! よい優等生メガネだ!!!!!(そこから?)
さわやかでかわいらしいお話だけど、「成人の儀」という女子にとってはなかなかにおぞましい風習が残っている辺り、けっこう女性にとって厳しい社会なのかなあとも思います。
でも中にはエーメリ君みたいな男子もいるし、大好きな花に関わって生きていく手立てはお花屋さん以外にもある、そういう社会や人生の良い面に目が向けられるようになったのはヴィエノちゃんの人生にとって重要な意味があったろうなと思えるよいお話でした。

あと表紙めっちゃカワイイ!
よく見るとヴィエノちゃん手袋をしてるんですね。
物語の冒頭は表紙の印象のように明るいものではなかったのでどきっとしましたが、読み終えたあとに彼女が花束を抱えて笑っている姿を見ると、うんうんよかったねえ、とおばちゃんくさい感慨を覚えるのでした。
2019'05'13(Mon)23:31 [ 同人誌・web小説の感想 ] . . TOP ▲
【読了報告】送水こうた『スマ・スマリからの手紙』
送水こうたさん『スマ・スマリからの手紙』を読みました。
文フリ東京(2019年5月)の戦利品です。


本作は書簡体小説の体裁をとっています。
大正中期、札幌郡琴似村は発寒川近くの「大柳の下」に届いた、宛名のない手紙。
「あなた」に向けて綴られた手紙の送り主は、なんと牡狐のスマ・スマリでした。
彼は「あなた」に頼まれたある目的のために里に下り、山中で見つけた人骨をまとって人に化け、養狐場へ潜入したというのですが……。
かつて北海道にあった養狐産業の盛衰を背景に、純朴で世間知らず(狐だから当たり前ですが)だったスマ・スマリが、狐としての自分と、人間としての自分との間で葛藤しながら、己が道を選択していく物語です。


「私はスマ・スマリと申します。
 いつか、あなたが発寒(はっさむ)川の岸辺で水を飲んでいた所に出くわした、痩せっぽちの牡狐です。」
(本文4ページ)


読み始めてまず思ったのは、日本語がうつくしいなあ、ということ。
うつくしい文体は、そのままスマ・スマリの真心を体現しているかのようです。
華美な言葉を選んでいるという意味ではなくて、誰にでも伝わる平易な言葉できちんと書かれている「うつくしさ」。
そのために本作は児童文学の風合いをもっていますが、 ちょうど過ごしやすい夏の北海道に時折冷たい風が吹くのに似て、内容はときに厳しく、ひやりと胸を打つこともあります。
文体と情景描写の美しさ、ストーリーテリングの巧みさが相まって、一気に引き込まれました。
私はこのご本を文フリ東京の会場ですぐに読みましたが、読み終わったときは自分が東京の四角いイベント開場の中にいることを訝しく思うほどでした。


話は逸れますが、昔『狐になった奥様』(作:デイヴィッド・ガーネット)というイギリスの小説を読んだことがあります。
そちらは主人公の妻が狐になり、だんたん野獣の凶暴さに支配されていくお話でしたが、『スマ・スマリの手紙』はその逆で、狐のスマ・スマリが少年に化けているうちに、徐々に人間らしさを帯びていくようでした。
どうやら、身体のかたちは心のかたちも変えていくもののように思います。

またさらに昔、高校の教科書で『棒』という小説を読んだことがあります。
死んだ男が木の棒きれに変わるお話で、作者は安部公房です。
その中に、棒(になった男)に謎の紳士たちが寄ってきて「この男は、(棒になる前から)もともと棒だったのだ」というようなことを言い放つ場面があります。
要するにただ棒のように道具として使役される人間だったので、死んで本来あるべき姿になったのだということです。
スマ・スマリはどうでしょうか。
彼が人間の姿を取るのはもちろん「あなた」の頼みを聞き届けるためですが、もともと人間らしいところがある狐だったから、人間になった、ともいえるのではないでしょうか。

そもそも人間らしさとはなんでしょうか。
どうにか養狐場の人々を騙そうとする狡猾さでしょうか。
技師長が向けてくれた優しさでしょうか。
神田さんが見せる執着でしょうか、それとも愛でしょうか。
そのどれもが当てはまるでしょうが、私には、この場面にすべてが詰まっているように思えました。
(全部書き出してしまうと未読の方の楽しみを奪ってしまいますので、前後は割愛します)

「ねえ、君もそうなったらいいと思わないか。見捨てられてしまった人間と、行き場のなくなった狐の星座だ。皆が僕らを星と見間違えて、きれいと言って夢中で数えるんだ」
(本文96・97ページ)


人間に心を寄り添わせたスマ・スマリは、どんな道を選ぶのでしょうか。
「あなた」の頼み事を果たすことができるのでしょうか。
そもそも「あなた」とは誰なのでしょうか。
さみしくもうつくしく、ひやりとしながらもまた温かい、素晴らしい物語です。
お見かけの際はぜひお手に取ってみてください。BOOTH通販や、かの書房さんへの委託もあるようですよ。
2019'05'08(Wed)15:07 [ 同人誌・web小説の感想 ] . . TOP ▲