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ヘヴンズ・セヴン第3章「旅立ち」3
昨日の続きをさっさと公開するぜ!

ところで、今はこの二つ先を書いているのですが、
今回はさっさとガナッツ先輩に眼帯を外してもらおうと思っています(多分)
旧サイトで初めてガナッツが登場してからもう9年ぐらい経ちますが
素顔公開は多分なかったんじゃないかな……と。
かといって、特にものすごいことになっているわけではないので期待しないでくださいませ……。

 ガナッツとサイザが、一斉にアシュリオの方を見た。驚いている。アシュリオに聞かれてはいけない話だった、という顔だ。
「俺の立嗣の儀って、どういうことですか」
 その答えを聞く前から、アシュリオの声はもう震えていた。立嗣の儀。それは、国王の後継者であるということを正式に認められる儀式。そして、王子が成人したと認められる儀式でもあった。それは、あの「6月14日の政変」が起きなければ、アシュリオ17歳の誕生日に行われるはずだった。
「アシュリオ先輩、あの……」
「いい、サイザ。……俺から話す。本当のことを話す」
 ガナッツはどこか観念したように、しかし覚悟を決めて、腰を上げアシュリオへ向き直った。
「ベリンゼが畑荒らしをしたのは、本当は贅沢暮らしがしたかったから、じゃない。アシュリオ、お前に立嗣の儀を受けさせたかったからだ」
「俺に……?」
 ガナッツは頷く。
「俺たちがこの島に来るときに、皆で決めたことがある。絶対にお前のために、立嗣の儀をしてやろうって。もちろん、お城でやるみたいに正式な、豪華な式ができるわけじゃない。それでも、自分たちで出来るなりに、お前を祝ってやりたかった」
 それは同時に、自分たちの為の儀式でもあったのだ、とガナッツは言った。彼らが生涯アシュリオのための騎士であるという誓いを新たにするものであったのだ。この苦しい生活の中でも、忠誠心を忘れない為に――いつか再び、アシュリオが王城に返り咲く日まで耐え抜くために。
「だけど、精一杯切り詰めた生活をしても、儀式に必要な白鋼剣を買う金を作ることができなかった。そうしてとうとう去年の4月10日、お前の17歳の誕生日を過ぎてしまった」
 立嗣の儀では通例、新品の白鋼剣を掲げ、国王の後継であることを宣言するものだ。その剣を、王子は国王になってからも、生涯愛剣として携え続ける。死ぬまでこの剣を抜くことがないように、平和な世を築くようにという誓いと共に。
 白鋼剣は非常に高価な剣だ。普段傭兵たちが使っている安い鉄剣の十数倍の値打ちがある。それでも、騎士たちにとって、剣は単なる武器でなく、誇りであり、自分自身の分身なのだ。アシュリオの騎士たちは、彼らが騎士であるゆえに、ほかの何をおいても、剣だけは省略したり代替品で済ませたりすることができなかった。
「それでも、剣を買う金はもう少しで貯まりそうだったんだ。でも今年もお前の誕生日まで日数が少なくなってきて、今年こそはと焦っていたベリンゼは、俺たちにも内緒で、畑荒らしを自作自演して、傭兵事務所への警備の依頼を増やしてもらうことを思いついた。村人を襲ったのは、その場を目撃されたからだ」
 ガナッツは淡々と話していたが、最後に唇を噛んだ。
 アシュリオはほとんど泣き出しそうな顔だ。
「剣を買う金のためにどうしてそんなに苦労したのかも、話さなきゃいけないだろうな」
 少し間を置いて、ガナッツは続けた。
「正規の傭兵になったら基本給がたくさん貰えるって、お前に教えたのは俺だったな。実は、それも嘘なんだ」
「……嘘?」
 消え入りそうな声で、アシュリオは聞き返した。
「本当のことを言うと、傭兵は歩合制で、基本給なんかないんだ。俺たちみたいな反逆者が、何もしなくても金がもらえるような、そんな楽な仕事に就けるわけがないだろう? 仕事がなければ、赤銅貨の1枚だってもらえない」
「じゃあ、俺が毎月貰っていた基本給っていうのは……」
 聞くまでもないことだった。ガナッツ達が少ない稼ぎの中から捻出した金に決まっている。
「アシュリオ、許しを請いたい」
 ガナッツは、アシュリオの前でゆっくりと膝を折り、手を付き、頭を垂れた。
「今まで黙っていて、本当に済まなかった」
 これで二度目だ、ガナッツがこうしてアシュリオに謝るのは。
 父王が殺された翌日、騎士団長として王を守ることが出来なかったガナッツが、自分の前で跪いて謝ったことを、アシュリオは今でも鮮明に覚えている。今すぐ俺を殺してくれ、と言われた。そんなことはできないと言ったら、ならば自分で死ぬと言った。アシュリオは何とかそれを思いとどまらせた。
 だが今回は、謝るべきはガナッツではない。彼らに養ってもらっていることさえ知らず、貧乏を嘆き、そのくせ生計を立てるために、特に何の努力もしなかった自分のほうだ。
 そう、頭では分かっているのに。
「……立嗣の儀なんか、誰がやってくれって頼んだんだよ」
 口をついて出たのは、そんな情けない自分への悔しさを、ガナッツに八つ当たりするようなひどい言葉だった。
「俺なんか、もう王子でも何でもないのに! そんなの、もうどうでもよかったのに……! 俺なんか……放っといてくれたらよかったんだ!」
 だが、それはアシュリオの偽らざる本心でもあった。これまで自分の為に、ガナッツたちが払った犠牲はあまりにも大きい。誰もが豊かで華やかな都の生活を捨て、自分の家を捨て、職を捨て将来を捨ててアシュリオに付いて来たのだ。ベリンゼ以外の若い騎士たちでさえ、本国にいればもう子供がいてもおかしくない年齢なのに、みな独身で貧しい生活を送っているのだ。
 王位継承権を失って、ただのアシュリオ・ヘイスになって、もう誰も自分の為に無理をしなくていいはずだったのに、結局は未だに王子なのだった。
 ガナッツはいつまでも立ち上がらなかった。主君に許されない限り、その面前で騎士は立ち上がるわけにはいかない。アシュリオはいたたまれなくなって、傭兵事務所を飛び出した。そして走り出した。涙はもう堪えるべくもなく溢れ出し、背にしてきたガナッツの方へと戻りたがっているかのように、ただただ後ろへ流れていく。
 走って、走って、走って、気がつけば、アシュリオは旅天使の遺跡まで辿り着いていた。もう辺りは薄暗く、木々が影を落として、薄気味悪さが漂う場所に変貌していた。
 すっかり息が上がっていた。苦しかった。昼間のことを思い出す。ティエルがいようがいまいが、このくらいで息を切らしている自分が、サイザやガナッツの足に付いて行けるわけがなかった。自分だって足手まといだったのだ。悔しくて、自分に腹が立って、また涙が出た。
「……アシュリオ?」
 背後から、自分を呼ぶ声が聞こえた。ガナッツではない、女の子の声だ。
 振り返ると、そこには、大きな荷物と杖を持ったティエルが立っていた。

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2010'11'14(Sun)18:45 [ 普通の記事 ] . . TOP ▲