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ヘヴンズ・セヴン第3章「旅立ち」4
忘れに忘れていた本編を更新するぜ!
割とまじめで悲しい旅立ちシーンになってしまいましたね。
第3章もこれでおしまいなので、近いうちにそろそろ小説のページに格納したいと思います。

現在のヘヴンズ・セヴン進捗状況。
第4章の頭でガナッツ先輩が眼帯を取るはずなのですが、なかなかうまく書けずに困っています……
眼帯とるの中止かなコレ…… えーっ!(自分にブーイング)

苦悩中につき次の更新がいつになるか分からないので
読み直すなら今のうち……v(ごまかせごまかせー)

続きからどーぞ。

 ティエルに、泣いているところを見られたかもしれない。
 アシュリオは慌てて涙をぬぐいながら、ティエルのほうへ向き直った。
「ティエルこそ、どうしたの? こんな時間に、そんな大荷物持っちゃってさ」
 ティエルは大きな旅行鞄と、なぜか木製の杖を持っていた。鞄だけでも、女の子には重そうに見える。それに加えて、樫か何かの丈夫そうな木で作られたこの杖は、魔法初心者用が護身用に持つものだ。ティエルはこれから一体どこで何をするつもりなのだろう?
 ティエルはアシュリオの質問に答えず、遺跡の入口の方へ足を進めていった。昼間のティエルとは、全く様子が違ってみえた。どことなくぼんやりとしていて、危なっかしい感じがする。何より、元気がなかった。
「ねえ、ティエル……?」
 アシュリオは心配になって、ティエルの手をとって引き止めた。彼女が振り返る。その顔を見てはっとした。彼女の白い頬の上を、一筋の涙が伝っていた。
 それを見ると、アシュリオ自身の泣きたい気持ちは一気に引いた。女の子が泣いているときに、どうすればいいのか分からない。少なくとも、男の自分が泣いている場合ではないと思った。
 ティエルは恥ずかしそうに微笑んだ、
「私、家出してきちゃったの」
「ええっ……!?」
 アシュリオは二の句が告げなかった。理由を聞くことは、少しも思いつかなかった。ティエルはアシュリオに背を向けて、遺跡を見上げている。
「家出って……もしかして、旅天使の遺跡でどこかへテレポートできる、と思ってるのか?」
 その可能性は昼間に否定したはずだ。1500年も前にかけられた魔法が、今も効力を残しているはずがない。
「でも、感じない? あの入口から、強い魔力……これが魔力っていうのかよく分からないけど、すごい力がにじみ出てきてる気がするの」
 言いながら、ティエルが遺跡の内部へ足を踏み入れた。アシュリオも遺跡へ目を向けた。そして、その瞬間に、不思議と目が離せなくなった。遺跡の入口を塞いでいた封魔の鎖は、昼間ゼノによって壊されている。厳重に巻かれて、向こう側を隠していた鎖は地面に落ち、いまは不気味な闇がぽっかりと口を開けていた。その向こうには小さな部屋がただ一つあるだけなのに、そこから強い魔力が滲み出ているのをひしひしと感じた。
 魔力の感じ方は人それぞれだ。ティエルがどういう風に感じているのかは分からないが、アシュリオにとって、それはどうしても抗いがたい誘惑のように感じられた。
(この遺跡に入れば、俺は今度こそ、ただのアシュリオ・ヘイスになれる……)
 鉄が磁石に引き寄せられるように、アシュリオは遺跡の中に入りたくてたまらなくなった。そんなはずはない、と、冷静に呼びかける自分の声が、少しずつ小さくなっていく。得体の知れない、何か強大で運命的な力が、理性も本能も及ばない別の領域で、自分を手招きしているのだ。
「アシュリオ! ティエルさん!!」
 アシュリオが遺跡の入口に足をかけた瞬間、そこに、ガナッツがゼノと共に走ってきた。ガナッツに呼ばれて、アシュリオは我に返った。
「何だ、この嫌な魔力は……!? 二人とも何をしているんだ!? 早く戻って来い!」
 ガナッツは、しきりに眼帯に覆われた右目を押さえていた。この場所がどういう場所なのか、古代史には暗いガナッツが知るはずもないだろう。それでも、このままアシュリオが遺跡の中にいれば、彼が一番望まない結果を招くことを、ガナッツは直感的に理解しているようだった。
 ゼノがすたすたと歩いてくる。
「何もないじゃないか。がらんどうだ」
 内部に入ってさえ、ゼノは何も感じ取っていないらしい。一方でガナッツは、右目を襲う激痛に耐えかねて、立つ事もできなくなっていた。
「先輩!? 大丈夫ですか!?」
 ガナッツの眼帯の下の右目は、幼少の頃病気で失ったと聞いていた。しかしこの遺跡に眠る魔力は、明らかにガナッツの右目だけに拒否反応を示し、排除しようとしていた。入口の三歩ほど手前まで近づくのが、ガナッツの限界だった。その場所から、ガナッツは手を伸ばし、血も吐かんばかりの必死の叫びを上げた。
「アシュリオ! 俺たちだって、お前がいたからこれまでやって来れたんだ! これからも、ずっと一緒にいたいと思っているのは、俺たちの方なんだ! お前は、何も気にする必要なんかないんだ、だから……! そこから出るんだ! 戻って来い! アシュリオーッ!!」
 その言葉はアシュリオの胸を強く打った。本当に嬉しかった。そして、悲しくてたまらなかった。乾いたはずの涙がまた溢れ出した。
 もう、ここから出るわけにはいかない、とアシュリオは決心していた。
 遺跡が不思議な白い光を帯び始めた。魔力がはっきりと目に見える形で現れ始めたのだ。間もなく、この遺跡の魔力が効果を発現するのだ。
アシュリオは、ガナッツの顔を見つめ直した。
「駄目だ! 行くな! 行かないでくれーッ!!」
 ガナッツの制止の声は、いつの間にか哀願に変わっていた。
 アシュリオが9歳のとき、王立大学で初めて出会ってから、今までずっと、傍で自分を守ってきてくれたガナッツ。騎士たちの中でもただ一人、自分を名前だけで呼んでくれたガナッツ。自分が王子でも何でもなくて、この人の本当の弟だったらよかったのにと、これまでに何度思ったかわからない。だから、貧しいクレシア島の暮らしも、本当はそんなに辛くなかった。
 それでも、いつまでもそんな風にただ守られているだけの自分のままでいるわけにいかないことも分かっていた。だから一人前の傭兵になりたいと思っていた。
 それももう叶わないのならば、せめてこれ以上彼の足枷にはなりたくない。
「先輩……俺は……」
 もしかしたら、もう二度とガナッツとは会えないかもしれない。何を言えばよかったのだろう。「ありがとう」だろうか、それとも「ごめんなさい」だろうか。しかし、アシュリオはどうしても、言い忘れていたことを言わなければならなかった。
「あなたを……許し、ます……」
 アシュリオは、もうその次の言葉を選ぶ猶予さえないことを悟った。夜の森の中に、柔らかな白い光が満ちていく。それは、まっすぐ空へ伸びてクレシア島の夜を鈍く照らした後、アシュリオたちを、ガナッツの手の届かない場所へ連れ去ってしまったのだった。

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2010'11'28(Sun)21:26 [ 創作日記 ] . . TOP ▲