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ヘヴンズ・セヴン/第3章「家出の理由」2
帝国軍アンソロ、別冊のほうも原稿が上がりました。
本誌よりさらに私の妄想をふんだんに盛り込んだ作品となっております(笑)
作者様、主催様、執筆参加者様、その他うっかり読んでしまった全ての方々に怒られそうです。
石とかテレビとか投げないでー!!

さてさて、これからしばらくは自分の創作のほうも頑張っていきたいなと思っている次第です。
9月に西日本で素敵なオフ会の予感が漂っているので、それに備えていろいろ本編とか
キャラ紹介とかも充実させていきたいです。
もう少し軽量化した読みやすい資料も欲しいところだし、
オフ会等々でお知り合いになった方々の読み切れてない本編も読破したい!
やりたいことがいっぱいです。
とりあえず、小説本編は週1更新を目指します!
やるぞ! おー!

*この後この記事の下に本編を更新しに来るよ。
更新しにきました。

 高級な応接机が、割れそうなほど音を立てて鳴った。
 叩いたのはガナッツだ。彼は、この机の持ち主――デラム・ウェストン卿に詰め寄り、襟首に掴みかかった。しかしすぐ冷静になり、その手を無言で離す。
「あなた方に恨まれるのも、無理はないと思っています」
 ウェストン卿は、沈痛な面持ちで低く答えた。最愛の娘が行方知れずとなり、昨日は一睡も出来なかったのだろう、彼は憔悴しきっていた。
 本来ガナッツは、昨日畑荒らしが自分の部下の自作自演だったこと、ティエルが旅天使の遺跡で行方不明になったことについて、謝罪の為にウェストン邸を訪れたはずだった。しかし、ガナッツがウェストン卿の怒りを買うどころか、逆にガナッツが激怒している。
「何故です、ウェストン卿」
 ガナッツは再びソファに腰を下ろし、ウェストン卿と目を合わさないで言った。
「何故今更になって、そんなことを私に打ち明けたのですか? ――イゼルレアに資金援助をして、先王陛下の殺害に手を貸していたのがあなただったなんて!」
 ガナッツがウェストン卿から聞いた「家出の理由」は、ほとんどウェストン卿の懺悔であった。そして、アシュリオが聞いたそれよりも、もっと詳細で、もっと驚くべき話に発展していた。それは、アシュリオに忠誠を誓い、ウェストン卿を信頼していたガナッツにとって、耐え難い真相だったのだ。
 「6月14日の政変」には、大きな謎が残っていた。イゼルレアが先王ジュリカ17世を暗殺できたのは、その日国王の寝室の警護に当たっていた騎士団員たちを買収していたからだったのだが、イゼルレアがどこから買収の為の資金を得ていたのか分からないままになっていた。
 その資金源となっていたのが、ウェストン卿だというのだ。
「あなたは、すべて知っていたのですね。私や他の傭兵や、アシュリオの素性も」
 ガナッツの問いに、ウェストン卿は静かに頷いた。
 もう5、6年前のこと、ウェストン卿は先王に近しいある大臣の密使から取引を持ちかけられた。私に資金援助してほしい、と。ウェストン卿はこの話に乗った。見返りに、ウェストン卿はヤクソウタンポポの専売権を得た。つまり、ウェストン卿の行っていたことは贈賄だったわけだ。
 そのうえ、娘のティエルを「王子」と婚約させるという約束も取り付けることに成功した。しかし実際には、金は大臣からイゼルレアに流れて、騎士団員の買収や、私兵の調達資金となっていた。そうして、「6月14日の政変」が起こったのである。ティエルと結婚するはずだったアシュリオ王子は王位継承権を失った。そのとき初めて、ウェストン卿も、「王子」とはアシュリオ=オーリーン=ジュリカ・アレスティアのことではなかったのだと知った。
「イゼルレアには息子がいる。いまは訳あって表に出ていないが、イゼルレアは息子に王位を継がせるつもりだ。その日はそう遠くはないから、それまで、アシュリオをクレシア島で監視しておいてほしいと女王は仰せだ――あのクーデターの直後、大臣の使いがやって来てそう言いました。即位直後から歯向かう者を次々に処刑していた女王に、今更従わないわけにいきませんでした」
 それが、アシュリオの流刑地にクレシア島が選ばれた理由だったのだ。それから4年、ウェストン卿は密かにイゼルレアへの資金提供を続けつつ、クレシア島にて貧乏な暮らしを送るアシュリオたちを監視し続けていたが、一向にイゼルレアの息子が現れる気配がないので、ウェストン卿はしびれを切らせていた。ティエルが見たのは、年に一度、貿易船と一緒にやって来る密使を問い詰めていたところだったのだ。
「言い訳にしかなりませんが、私は心の底からティエルのことを愛していたのです。並の貴族が結婚相手では、ティエルは今のように裕福な暮らしを送ることができなくなってしまう。ティエルの結婚相手は、この国でもっとも裕福な男でなければ――」
「その言い訳は、ティエルさん本人にして差し上げるべきだ」
 ガナッツは冷たく遮った。
「どこに行ったのかも、生きているのかも分からぬ娘に? ……よしんば再び会えたとしても、たった一人の娘まで取引の道具に使った私を、ティエルが許してくれるとは思えません。財産も名誉も、家族がいなければ全てが空しい」
 あなたに依頼したいことがある、と唐突にウェストン卿は言った。
「ガナッツさん、ここで私を殺してください」
「馬鹿なことを」
「私はあなた方の復讐を受けるに足る人間です。私が欲を出さなければ、あなた方の王は死なずに済んだのだから」
 その言葉を聞いて、再びガナッツは激昂した。剣を抜き、凄まじい速さでウェストン卿の首筋を目がけて振り上げた。ウェストン卿は思わず目を閉じた。
 しかし、刃先は寸前で止まった。ウェストン卿の命を断つことなく、ガナッツは剣を下ろした。
「……なぜです。私が憎くないのですか」
 ウェストン卿の問いに、ガナッツは、低い声で答えた。
「あなたのことは憎いと思う。しかし、私たちの王が命を落とされたのは、あなたのせいではない。部下たちの裏切りに気づかず、王を守りきれなかった私の責任だ。ここであなたを斬ることは、それをあなたに転嫁することだ。それに……」
 ガナッツは剣を鞘に収める。鍔が乾いた金属音を鳴らした。
「4年前、私もアシュリオ王子に、あなたが私に頼んだのと同じことを頼んだ。――結果は見ての通りだ。アシュリオ王子がここにいても、あなたを殺せとは決して命じないだろう」
 私に依頼してほしいことがある、と今度はガナッツが言った。
「行方不明になったティエルさん、そしてアシュリオの捜索に当たります。この任務には傭兵を全て連れて行きます。拘束されているベリンゼも、解放してもらいます。おそらく、二人は生きている。アシュリオなら、ティエルさんをもう一度あなたのもとに送り届けようとするはずです」
 ガナッツは携帯している世界地図を広げた。
「だとすれば必ず、唯一クレシアへの船便が出ている本国の港町ポルタを通るはずです。私たちはここで情報収集を試みます。捜索にかかる経費は、すべてウェストン卿に負担して頂きます。……何か異論は?」
 ウェストン卿は黙って依頼書にサインをした。
グランシア暦1500年4月2日、クレシア島の傭兵事務所は、この日事実上の解散を迎えた。同日午後3時に出向した貿易船に乗り、アレスティア本国に渡ったガナッツら6人の傭兵が、以降クレシア島を訪れることは、二度となかったのである。

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2011'05'23(Mon)21:46 [ 創作日記 ] . . TOP ▲