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ヴェトラフ・ウント・クラフ 4「ヒルフローゼ・レーゲン」3
いま自分のサイトの更新状況をチェックしていたら、
VUKがえらく尻切れトンボな感じだったことにきづいた……。
ぶっちゃけ更新するの忘れてt

次はムーミン復旧と言っていましたが、慌ててのっけにきました。
今週はストックのおかげで週2小説本編公開を難なく果たせました。
あぐらをかいていられるのもいまのうちよ!
じゃんじゃん書いていきましょうね……。

ちなみにうちのサイトはブログに最新の更新を載せてから、
しばらくしたら小説コーナーに格納する方式を取っています。
ブログだったらうっかり読んでもらえるかもしれないじゃない(笑
ジャンプとジャンプコミックスみたいなものだと思ってください。

ですので未格納部分は検索バーに「ヴェトラフ」「ヘヴンズ」などと
入れて検索していただけるとでてくるかと思います。
ちゃんとカテゴリわけしてればもっと楽に見つかるのだけど……。
善処します。ううん。



さて、VUK本編は続きからどうぞ。

 僕がどうにかパンの最後のひとかけらを飲み込んでも、ヴェトラフは黙って座りこんでいた。壁際に寄りかかって、立てた右ひざの上にさらに右腕で頬杖をついて、辛抱強く外を眺めていた。こいつも、雨が止むのをひたすら待っているんだろう。
「これから、僕をどうするつもりだよ」
 所在無さに任せて、僕はヴェトラフに話しかけていた。湿った空気が、シャワーを浴びていない体を余計に汚しているような気がした。僕は特別きれい好きっていうわけじゃないけど、早くさっぱり洗い流したいと思っていた。でも、今の僕は逃げ出すこともできない。
 少し、空が明るくなった。土砂降りの雨を降らせる雲の上で、確かに朝日は上っているみたいだ。ほんのわずかな雨雲の隙間から錆びた窓枠の中へ、太陽に押し込まれるように光が差してヴェトラフを照らす。
 僕はそのとき、ヴェトラフの右腕が黒い甲冑みたいなものに覆われていることに初めて気がついた。ところどころ赤やオレンジに染められた派手な羽つきの袖口から、真っ黒な金属の手が見える。
「その手……」
 ヴェトラフはようやく僕の方を見た。
「機械。それがどうした」
「本当の、手は……?」
「動かなくなっちまったから、肩口から腕ごと切り落とした」
 僕はその答えを聞いて、思わずその痛みを想像してぞっとした。ヴェトラフが右手の指を順番に動かすと、ガチャガチャと音がした。
「油の、注し時だな」
「何で、動かなくなったの……?」
 よく考えれば、聞かなくても、分かることだった。でも、僕は聞かずにはいられなかった。
「さあ、覚えてねえなぁ」
 ヴェトラフは答えなかった。また遠く窓の外に目をやる。僕はヴェトラフの横顔を盗み見た。左眉からこめかみの下まで残った長い傷跡が、やけに生々しかった。僕は想像する。52回の逃亡劇と、52回の脱走劇を演じてきたヴェトラフのジャケットの下に、見えない傷跡がどれくらいあるんだろうか? いったい何回、痛い思いをしたんだろうか?
 ヴェトラフが僕を睨んだ。
「生きてるだけマシってことだろ」
 僕ははっとした。危うく、ヴェトラフをかわいそうだと思うところだった。ヴェトラフがそう言わなければ。味の無くなったガムを吐き捨てるみたいな言い方で。
 ヴェトラフはよく分かっているように思えた。結局一番悪いのはヴェトラフ自身だっていうことを。そうだ、ヴェトラフなんかより、ヴェトラフに殺された人たちの方がよっぽど痛くて、辛くて、苦しくて、かわいそうに決まってる。僕は自分に腹が立った。死んだ父さんに対してすまない気持ちになった。父さんに一番近い家族の僕が、ヴェトラフに同情するなんて事は、あっちゃいけないはずなんだ。
 唐突に、ヴェトラフのことを憎む気持ちが心の底から湧き上がって来た。
「……僕の父さんのこと、覚えてるか?」
「あ? お前の親父のことなんざ知るかよ」
「お前に殺されたんだ! 覚えてないっていうのか!」
 僕は跳ね上がるように立ち上がって、ヴェトラフを睨んだ。ヴェトラフも意外そうに、僕の目を見返してきた。
「そいつは悪かったな」
 思いがけなくあっさりと、ヴェトラフは謝った。でも特に済まなさそうな表情はない。むしろ退屈そうな目をしていた。また、膝の上に立てた右の黒い手の下に、口元を隠す。
「そいつは悪かったな、だって……!? お前! 人殺しなんだぞ! そんな謝り方があるかよ!」
 僕はヴェトラフの機械の手首を掴む。その口元から手が離れた。冷たくて硬くて、ごつごつしていた。
「お前の親父にもお前にも悪いなぁと思ってるよ。本当にな」
 ヴェトラフは真っ直ぐに僕を睨み返してきた。
「でも自分のやったことは悪いと思ってない。お前にはこの違いが分かるか?」
 きちんと人間のものと同じ形をしたヴェトラフの左手が、僕の手の上に乗った。その瞬間、一気に血の気が引いた。腰の底から頭の先へ締め付けるような悪寒が走った。それでいて、心臓の中から出た炎が動脈を伝って体中を焼けつかせるような、痛みに似た火照りをも同時に感じた。
 ――あんたは自分が息を吸った回数を数えたことがあるのか?
 カラスさんが言っていたのは、こういうことだ。こいつは、人を殺すことなんか、全くなんとも思っちゃいない!
「そんなもの、分かるわけがない!」
 僕の叫びが、建物の中に鈍く反響した。こんなに感情的なのに、涙はすっかり干上がってしまっていた。僕は目の前の殺人鬼の手を振りほどいて、一歩身体を引いた。
 ヴェトラフはゆっくりと立ち上がった。僕の方へ、一歩近づく。
「な……なんだよ!?」
 僕はまた一歩下がった。
「止んだな」
「はあ?」
「雨が」
 ヴェトラフは僕を置いてすたすたと外へ出て行く。
「ここで待ってろ」
「ちょっ……どこに行くんだよ!?」
「さっきから質問の多い人質だな。もうちょっと大人しくしてろよ」
 ヴェトラフの姿が見えなくなった。僕はぽかんとそこに立っていた。いったいヴェトラフは僕をどうするつもりなんだろう? でも、僕はここから動けなかった。
 そのとき、外から、何か奇妙な音が聞こえてきた。メキメキ、メキメキ、木の枝が折れる音? いや、木の枝よりも多分ずっと固くて太い、骨と骨が軋むような――。
 鋭いサイレンのような音が僕の思考を吹き飛ばした。トタンの壁が震えている。今度は何の音だなんて考える事もなく、僕は外へ走り出した。
 鷹、だった。
 空っぽの駐車場に、馬みたいに大きな、焦げ茶色の鷹がいた。逆立った頭の毛。鋭い目、左目の上には傷があり、そして、右の翼は複雑に組み立てられたくろがねの機構で出来ている。
鷹は僕の方を見つめて、再びサイレンのような鳴き声を上げる。鳥と機械の両翼を広げて閉じた。それは、まるで空の帝王のような気高い姿だった。
「ヴェトラフ……なのか?」
 僕が恐る恐る近寄ると、その鳥は頭を下げて背中を低く平たくした。乗れ、と言っているようだ。
 僕は意を決して、その首元にしがみついた。大きな鷹が、地面を蹴って飛び上がった。
 僕は落ちないようにするのに必死で、空中飛行の気分を味わい損ねていた。その背中は固くて動物臭くて、あんまりいい乗り心地じゃなかったのは確かに覚えている。空はまだ曇っていた。空気もジトジトしていて、朝日はほとんど見えない。だけど、それでも眩しくて僕は目を細めた。

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2011'05'28(Sat)11:35 [ 創作日記 ] . . TOP ▲