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ヘヴンズ・セヴン/第3章「家出の理由」3
ムーミンのリライトに苦しんでおります。
むりなんじゃねえのこれー。

ということで、苦し紛れにのっけに来たヘヴンズ・セヴンをどうぞ……。

イゼルレアとケンペルが再登場。
セイジ初登場。

ケンペルいやな奴になれ! と念じながら書きました。。。


続きから。

 ――同4月2日、アレスティア王国・オーリーン城

 正午過ぎ、キース・ケンペルが、玉座の間に呼び出された。
 「お呼びでございますか、女王陛下」
 ケンペルは無駄のない所作で膝を折り、長身を縮めて女王に跪く。
現在の彼の肩書きは、「アレスティア王立騎士団長」。ケンペル家は、代々騎士団長を輩出してきた、アレスティア随一の武家の名門である。その当主たるキース・ケンペルは、金髪碧眼の貴公子で、32歳の若さにして既に風格十分、まさに騎士団長たるに相応しい男であった。
4年前の月光戦争において、ケンペルは何度も身を挺してアシュリオの危機を救った忠義の騎士として勇名を馳せた。だから、彼はガナッツと共に、アシュリオ側へ付くだろうと誰もが思っていた。しかし彼は大方の予想を裏切ってクレシア島へ行くことを拒み、ガナッツの辞職によって空いた騎士団長の座に繰り上がった。そして、アレスティア王家にとって最高の忠臣と称えられていたはずのこの騎士は、いまとなってはイゼルレアの無二の腹心となっていた。
「ケンペル、お前にぜひ見てもらいたいものがある。セイジ、水晶球をこれへ」
 女王近侍の宮廷魔術師が、大きな水晶球を捧げ持ってやってきた。
 ケンペルは許しを得て、女王の傍へ歩み寄った。水晶球に、ある人物が映し出されている。よくよく覗き込んでみると、それはアシュリオが、見知らぬ少女と、背の高い軍人風の男を伴って、ある建物の廊下を歩いているところだった。
 女王は注意深くケンペルの表情を見つめている。彼の反応を覗っているのだ。
「……この廊下が何の建物内かは分かりませんが、おそらくクレシア島にあるものではないでしょう。だとすれば、アシュリオ・ヘイスが、女王陛下のお許しなく、クレシア島から抜け出したということになります」
 4年ぶりに見たアシュリオは、ケンペルの記憶よりもずっと背が伸びて、大人びた顔になっているはずだった。しかしそれを見ても、この騎士団長は何の感慨も覚えないのか、少しも表情を変えることはなかった。それどころか、ごく自然に、アシュリオをアレスティア姓でない名前で、しかも呼び捨てにしていた。それを聞いて、女王は満足気に頷いた。
 宮廷魔術師のセイジが口を挟んだ。
「アシュリオ・ヘイスは、旅天使の遺跡を使って島を出たようです。長い間封印されていた旅天使の遺跡の移動魔法を、ヘヴンズ・セヴンの子孫たるアシュリオの強い潜在魔力が発動させたと見られます」
 セイジの顔はいつも臙脂色のフードと、鼻から下を覆うマスクに隠れていてよく分からないが、声を聞くと若い男のようである。
「そして――ライゼル・ガナッツをはじめとするクレシア島傭兵事務所の傭兵達が、アシュリオ捜索の為に、本日中に島を出てポルタへ渡来するようです」
「ガナッツが……?」
 ガナッツの名前に対しては、ケンペルはいささか不快そうに眉を顰めた。
「ウェストン卿が、いやしくも女王陛下を裏切り、彼らを島から逃がしたのです。反逆者を本国へ帰すなど、言語道断ではありませんか。ウェストン卿も、傭兵どもも、厳しく処罰すべきです」
 セイジは女王に訴えたが、女王はちらとケンペルに目配せをしただけだ。それを受けて、ケンペルはこう自分の考えを述べた。
「流刑人のアシュリオと違い、ガナッツらは騎士団を罷免され、傭兵としてクレシア島に赴任していたに過ぎません。彼らが島を離れるのはウェストン卿の依頼によるもので、それ自体を咎め立てすべきではありますまい。ウェストン卿に対しましても、女王陛下は彼らを島から出してはならぬとお言いつけではございませんでした。ウェストン卿は我が国の経済における最大の功労者でございます。これしきで罰するのは得策ではないかと」
「ふむ……おぬしの言う通りだ、キース・ケンペル」
 イゼルレアは嫌らしく口角を吊り上げた。ケンペルは黙って頭を下げる。
「ということは、流刑人であるにも関わらず島を脱したアシュリオについては、捕らえて厳しい罰を与えるべきだ――ということでよいな、ケンペル?」
 女王は、またも、探るような目でケンペルを見つめている。
「当然でございましょう」
 ケンペルはその青い両の瞳で、堂々と女王の目を見つめ返して、きっぱりと答える。彼が月光戦争の折には、身を挺して何度もアシュリオを守った忠義の人だったとは、到底思えない態度だ。
 イゼルレアの高笑いが部屋中にこだました。
「殊勝なり、ケンペル! わらわはますますそなたのことが気に入った」
 ケンペルは無表情のまま黙って一礼だけを返した。セイジがその横顔をちらりと探るように見てから、こう言った。
「……女王陛下、ちょうどアルトゥールには、私のしもべ、バルゴルがおります。ここは奴に、ひと働きさせてみましょう」
「うむ、よかろう。セイジ、貴様の力がわらわの役に立つこと、しかと証明してみせよ。それと――」
 女王は徐に玉座から立ち上がり、自らセイジの耳元へ口を寄せた。ハイヒールの足音が硬い音を立てて響いた。
「我が子らの捜索の件も、よろしく頼むぞ」
「もちろんでございます、女王陛下。近いうちに、必ずやよい報告をお持ち致しましょう」
 女王にも、覆面の下のセイジの唇にも、不敵な笑みが浮かんだ。それを傍から見ているケンペルは、わざとらしく眉を寄せて、こうたしなめた。
「陛下、床が傷つきます。絨毯の上をお歩きください。ここは貴女の城なのですから、もう少し大切にされては如何か」
 それを聞いて、女王はまた高らかに笑った。

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2011'06'01(Wed)22:12 [ 本編/ヘヴンズ・セヴン ] . . TOP ▲