Our York Bar  
03≪ 2017| 12345678910111213141516171819202122232425262728293004/ ≫05
ヘヴンズ・セヴン/第4章「不良聖人」1
今週1本めの更新です。
影閃がー 晴れてちょっとだけ初登場です! よっ!

次の更新どうしようかねぇ。
オフ会などでHS資料をごらんになった方にしか公開されていない情報なのですが
明日ケンペルの誕生日なんですよね。
うっかり彼にちなんだSSとかアップしても今週2本目としてはカウントしないんだからね!
……と先に書いておかないと後で言い訳をしそうなのだった。
目標はあくまで週2回の「本編」更新だよ!

後で拍手のお返事などをまた別記事に書きに来るつもりではございますが、
とりあえず、本編はつづきからどうぞ。

第4章 不良聖人

1.

 寝室から出ると、白く長い廊下が続いていた。
「この先だ」
 ゼノは先に目を覚ましていたようで、アシュリオとティエルをこの建物の主のところまで案内してくれた。
 それにしてもここはどこだろう。アシュリオは廊下を観察しながら考えた。新しい建物ではなさそうだが、掃除が行き届いて清潔感があった。数歩おきに経っている柱には、見慣れぬ装飾が施してある。グランシア暦1200年ごろのアレスティアの建築様式と似ていなくもないが、同じではないようだ。
 真っ直ぐ進んだ後、左に曲がると突き当たりに大きな白い扉があった。ここがその主人の部屋らしい。アシュリオがノックすると、中から声が返ってきた。
「どうぞ」
 それは意外にも、若い女性の声だった。扉を開けるとその声の主が姿を現した。
「ようこそ、わが僧院へ」
 その女性は、爽やかな白と水色のワンピースの僧衣を着て、十字の描かれた四角い帽子をかぶっていた。どうやら僧侶、それもかなり位が高いようだ。ミィナ・アグレイルと名乗ったこの女性は清楚で可憐で美しく、それでいて気高さをも感じさせる人物だった。年齢はおそらくまだ二十歳をそう大きく過ぎてはいないと思えたが、彼女が内に秘める聖なる魔力に、アシュリオは安らぎを覚えた。そして、母のレシア王妃のことをふと思い出して、少し切なくなった。――4年前にイゼルレアの人質になった母は、果たしてまだ生きているのだろうか、と。
「助けてくださってありがとうございます。実は、僕たちはアレスティア人で、旅の途中で迷ってしまって、ここで行き倒れていたんです。お恥ずかしいことながら、僕たちはここがどこなのか、少しも分かっていなくって」
 来客用のソファに座らせてもらって、アシュリオたちは自己紹介をし、そして嘘をついた。クレシア島の名前を出さないほうがいいと思ったからだ。自分やティエルの素性に繋がる言葉を隠しておきたかったし、だいいち旅天使の遺跡からワープしてきたなんて、信じてもらえそうもないと思ったのだ。先にミィナと面会したゼノも同じことを考えていたらしく、アシュリオ達は単なる旅人ということになっているようだった。
「それは大変でしたね……。ここの場所でしたら――そうですね、地図を出しましょう」
 ミィナは後ろの棚から巻物を取り出す。大きな世界地図が机の上に広げられた。
「アレスティアは、ここですね」
 そう言って、ミィナは中央の大陸を指した。南北に分かれた広大なアレスティア大陸だ。それよりもっと北にある、クレシア島に目が行きそうになるのをこらえながら、アシュリオは頷いた。ミィナの指は、アレスティアの首都、かつてアシュリオが王子として暮らしていたオーリーン市の上に乗っていた。
「いま、私たちがいるのは、ここです」
 ミィナの指は、南に滑っていく。その指がアシュリオがクレシアへ流されたときに、船に乗ったポルタ港を過ぎると、アシュリオの顔色がさっと変わった。そして「安通」という都市の上で止まった。島の名前は、「月光島」と書かれている。
「月光島……」
 アシュリオは思わず呟いた。
「ああ、この地図は少し古いので……。いまは月光島という名前は、使われておりません。アレスティアの方ならご存知でしょうけれど、4年前の月光戦争の後、月光島はアルトゥール島へ、安通市はアルトゥール市へと改称されておりますわ。ここはアルトゥール僧院といって、十字教の神を信じる人々が集う場所です」
 旅天使の遺跡は、アシュリオたちを世界地図の北から南へ運んできてしまった。それも、アシュリオにとってこの上なく因縁深い土地へ。
 月光戦争の際の主戦場になった月海地方とアルトゥール地方は、険しい山脈で遮られており、アルトゥールが直接戦火に見舞われることはなかった。しかし旧月光帝国の民はもちろん今も大勢生活している。アシュリオのことを、憎んでいる人々もたくさんいるだろう。そう思うとアシュリオは歯の根が合わなくなって、逃げ出したいような気持ちに駆られた。
「どうしたの? 顔色が悪いわよ」
 ティエルが心配そうに顔を覗き込む。アシュリオはようやく我に返った。
「いやあ、あまりにも遠くに来ちゃったなぁと思って、さすがに血の気が引きました」
 笑ってごまかすアシュリオに、ミィナは問いかける。
「これからどちらへ行かれるおつもりだったのですか?」
「いえ、特にあてのない旅だったので……」
 アシュリオがそう答えると、ミィナはこの旅人の集団に、何か深い事情があるのを察したように、穏やかに微笑んだ。
「もしも道に迷われているなら、しばらくここで休まれていってはいかがですか? 神はきっと、あなたがたの進むべき道を示してくださるでしょう」
「それは、僧になって修行をしろ、ということか?」
 失礼にもゼノは眉を顰めて言った。アシュリオは焦ったが、ミィナには少しも気分を害した様子は見られなかった。
「あなたは、神の存在を信じてはいらっしゃらないようですね」
「当然だ」
「それでも構わないのです。僧になる必要もないのです。神は必ずあなたを救ってくださいます。あなたが、そう求めるならば」
「そうか。それなら、この世界の神はそうなのかもしれんな」
 ゼノは投げやりな返事を返した。彼はこういう、根拠のない非科学的な話が嫌いなのかもしれない。
 けれどもアシュリオは、僧侶になるという道を、意外なことに現実的に想像していた。月光戦争で多くの犠牲を払った罪を背負い、素性を隠し、僧となって一生祈り続ける「王子だった人」を想像した。旅天使の遺跡が自分を他のどこでもなく、このアルトゥール僧院に連れてきた理由があるとすれば、まさにそれなのではないか。そうすれば少しは、失われた命も、自分も救われるのだろうか? ――
 そんな思考を吹き飛ばすかのように、乱暴にドアの開く音がした。
「出家してうちの僧侶になるって? 悪いこたぁ言わねぇからやめといた方がいいぜ」
 僧院には似合わない、血なまぐさい臭い。アシュリオ達は顔を上げた。
「影閃!」
 ミィナが叫び声を上げた。
 そこには、傷だらけの若い僧侶が一人、血塗れた槍を持って立っていた。

スポンサーサイト

2011'06'09(Thu)22:53 [ 普通の記事 ] . . TOP ▲