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ヘヴンズ・セヴン/第4章「不良聖人」3
全然進まなくて今週はもうだめかと思った!
どういう風に書けばいいのかとても困ったところです。

毎回の更新は3000字プラスマイナス1割ぐらいにしようと思っているのですが、
今回は日曜の朝の時点で200時ぐらいしか進んでませんでした。
出来はさておき、とりあえずなんとか間に合ったみたい。

今週2本目の更新です。
続きから。



 空の高い昼下がりだった。渇いた風がどこからともなく、柑橘の爽やかな香りを運んでくる。僧院は小高い丘の上にあったのだと、アシュリオたちは外に出て初めて気付いた。長く続いた石段の下に、アルトゥールの街並みが広がっていた。
 素晴らしい景色だった。僧院と同じような白くて四角い家々と、鮮やかな緑の木々が交じり合って並んでいた。遠くに、市内をぐるりと取り囲む高い塀が見える。かつての月光帝国の主要都市には必ずこういう塀があった。モンスターの侵入防止のために設置されたものらしい。弱いモンスターしか生息していないクレシア島には必要ないものだ。
「せっかくだし、何かおいしいものでも食べたいわ! ちょっと街に出てみましょうよ」
 ティエルはすっかり物見遊山気分だ。自分が家出人だということを忘れているのだろうか。しかしアシュリオだっておいしいものは食べたいので、反対はしない。もちろんティエルが奢ってくれることが前提である。
 石段を下ると、僧院通りと呼ばれるアルトゥールのメインストリートが北へと伸びている。衣料品や食料品などの店が軒を連ね、人通りは多いが、その割に静かだった。若い僧侶の行き来が主で、一般の市民は中年や老人ばかりだ。賑やかに騒ぐ若者が多かったオーリーンの往来とは、明らかに空気が違った。アレスティア系の白い肌の人も、月光帝国系の黄色がかった肌の人も、どちらも同じくらい居た。ここは世界中の十字教僧侶が集まるところで、人種の坩堝なのだ。
「ねえ! あそこのお店がいいわ!」
 ティエルが指差した先は、白い真四角の一軒家にどぎつい赤と緑の看板が引っ付いただけの小さな食堂だった。文字は月光帝国の文字でよく分からないが、ゼノの「翻訳機能」によると「本場の月光料理をどうぞ」と書いてあるらしい。ティエルはなおさら行きたいと喜んだ。何料理の店かも読めない看板を見て、いったい彼女は何を基準に「よさそう」と言ったのか、アシュリオには理解しかねるところだ。
「いらっしゃい!」
 店に入ると、10歳くらいの男の子が元気良く迎え入れてくれた。
 カウンターに立っているのがこの店の主で、この男の子の父親だろう。男の子は看板息子といったところだろうか。二人ともその風貌は月光帝国系の人だったが、挨拶はアレスティア語だった。昼食時を少し過ぎているからか、客はほかにいない。一番奥の席に通された後、店主はアレスティア語で書かれたメニューを出してくれた。アシュリオは一安心した。実はこの月光料理、アレスティア人が到底食べっこない食材が使われていることが多い。知らずにオオトカゲの塩焼きやミミズ入りの煮物を注文してしまわないかと、内心不安だったのだ。
「トカゲって食べられるの!?」
「ミミズ料理……、珍しいな」
 男の子にお勧めの料理を聞きながら、ティエルとゼノはそれらを次々と注文していく。それらが同じ食卓に並ぶのかと思うと、アシュリオは少し食欲が衰える気がしたが、しかし久しぶりにご馳走にありつけるチャンスを逃すわけにはいかない。
「あのぉ……お肉を使った料理はありませんか。牛肉とか、豚肉とか鶏肉とか」
「肉? 悪いけど、うちはトカゲとミミズとコウモリしかないよ」
「この街は僧侶が多いから、四つ足の獣とニワトリの肉はあんまり売れないんだ。戒律で食べちゃダメって決まってるからね。この辺じゃ、どこに行ってもほとんど取り扱ってない」
 男の子と店主が口々に答えた。牛肉が食べたい! というアシュリオの願いははかなく散った。
「じゃ、ボクはサラダと白ご飯だけでいいです……」
「何? 私に遠慮してるの? いいのよアシュリオ! どんどん食べなさいよっ」
 ティエルはアシュリオのために、勝手にコウモリの丸焼きも追加注文した。次々と、アシュリオにとってはゲテモノにしか見えない料理が並んだ。
「うう……いただきます……」
 出された料理はきちんと食べろ、と王子時代からしつけられてきたアシュリオは、白ご飯とサラダと、コウモリの丸焼きをきれいに食べた。コウモリも思ったより食べられなくはなかったが、独特のにおいで何度もむせそうになった。
 香ばしく焼き上げられたコウモリと目が合ったとき、アシュリオは涙目になりながら思った。
 牛は殺して食べちゃダメで、コウモリはOKなの? 同じ命じゃないのか。
 戒律って、いったいなんだろう。
「ごちそうさまー! すごくおいしかったわ、ありがとう!」
 そして、ティエルとゼノはどうして平然と食べられるのだろう。不思議だ。
「お客さん、この辺の人じゃないみたいだけど、本国から来たのかい?」
「まあ、そんなとこかしら。ちょっと、旅のついでに観光っていうか」
 ティエルもうまく口裏を合わせている。
「この街は僧院の街なのね。僧侶ってみんないい人そうに見えるわ。やっぱり修行してると、心が綺麗になっていくものなのかしら」
 それを聞いて、店主が笑った。
「とんでもない。最近の僧侶なんて、兵役逃れのなまぐさばっかりだ」
「兵役があるのか?」
 ゼノが尋ねると、店主は怪訝な顔をした。
「お客さん、何言ってる? どこの国のせいで、そんなことになっちまったと思ってるんだ。兵役なんてなかったに決まってるじゃないか、ほんの4年前まではね」
「4年前?」
「ほら、同盟戦争だよ――アレスティアでは、月光戦争っていうのかな。ここは、4年前まではアレスティアの領土じゃなかったんだ。あんたもアレスティア人なら、知らないわけじゃないだろうに」
 4年前の戦争は、アレスティアでは俗に「月光戦争」と呼称されているが、必ずしも戦争の実情を的確に表現しているとはいえなかった。店主のいう「同盟戦争」のほうが的を射ている。月光帝国自体は軍事力の乏しい国だったが、ギムシナ魔法王国とジャポネ国という二つの同盟国があった。月光戦争は、アレスティアと月光帝国との戦いというより、むしろその同盟国との戦いであった。ギムシナはその名の通り魔法の研究が進んだ国で、軍は戦闘魔法の精鋭揃いであった。ジャポネは小国ながら、義に厚く友軍の為ならば命も惜しまない。どちらもアレスティアにとって、非常に恐ろしい敵だった。
「そうか。そうだったな。――世間知らずで悪かった」
「いいや。いいのさ」
 月光戦争のことは、アレスティア人ではないゼノが知るはずもないことだが、店主の気に障ったことを察すると話を合わせて素直に謝った。そうすると、店主は気を悪くするふうでもなく、兵役の内容を話してくれた。いわく、イゼルレアの命令で、アルトゥール島の男子は、18歳から23歳の間に、2年間兵隊に入らされることになった。しかし、僧院に出家した僧侶だけは免除される。
「それで金のある家は僧院に金を積んで、息子を出家させるようになった。23歳を過ぎたら、また金を積んで、僧侶をやめて還俗させるんだ。うちみたいに男の子のいる家は、みんな必死で金を貯めてるよ。女王様が、いつギムシナかジャポネかを攻めるって言い出すか分からんからな。誰だって我が子を戦争に何か出したくないもんだ――それも、自分の生まれた国を滅ぼした奴らの為の戦争なんかに……いや、すまん、口が滑った」
 アシュリオは男の子と目が合った瞬間、反射的に立ち上がった。とても黙って聞いていられない話だった。戦火に見舞われなくとも、祖国を滅ぼされた以上、月光帝国の民はアレスティアを、自分を憎んでいる。当たり前のことだった。頭では分かっていることだった。しかしそれを眼前の事実として受け止めるだけの覚悟が、アシュリオには備わっていなかった。備わっていないことを、自覚してすらいなかった。
「父さんの料理、おいしくなかった? だいじょうぶ?」
 アシュリオは首を振った。笑顔を作って、そんなことないよ、と言った。
「そろそろ行かない? 俺たち、宿も探さないと」
 ティエルが特に不審がらずに「そうね」と言ってくれたのは、アシュリオにとっては有難いことだった。
「おっちゃーん。いつもの定食ひとつ!」
 ティエルが三人分の支払いの為に立ち上がろうとした。が、今来た客の顔を見て、とっさに隠れるようにまた座った。
 影閃だったからだ。

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2011'06'26(Sun)22:03 [ 本編/ヘヴンズ・セヴン ] . . TOP ▲