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ムーンライト・ミンストレル/第1夜「兜の下にうつくしい女神」3
超スーパーミラクルひさしぶりの更新です。

昔の原稿のラブラブモードの部分を見てブフゥwwwwwとなりつつ頑張りました……
己の敵は昔の己だった!
今回主要な新キャラは3人。
といっても一人は既に前回名前が出ているので、本当のハジメマシテは2人ですね。

今回の更新分で第1夜は全てですので、後ほどサイトのほうにも格納する作業をしたいと思います。
明日くらいになるかもな? 終わったらここでおしらせしまっす。




3.


 戦勝の宴のあと、「戦場の女神」はひそかにレアゼン砦の屋上へ向かった。そこには同じく戦に出ていたゼアテマの王子、ヨナディオ・ゼアロードが、優しい微笑みを湛えて待っているからだった。シトリューカの国サン=セヴァチェリンとヨナディオの国ゼアテマは同盟国であり、その王女と王子は、将来を誓い合う仲であった。
 兜を脱ぎ捨て、錦糸の髪を解き放ち、ヨナディオの胸に飛び込むシトリューカ。ひとりの乙女にとっては、愛する人とくちづけを交わして、抱きしめられるその時こそが、何よりも幸せな瞬間のはずだった。
「無事でよかった、シトリー」
「ヨナディオ、あなたこそ……」
 それが、いつの間にか二人の逢瀬の挨拶になってしまっていた。シトリューカとヨナディオには、常に戦争の闇がつきまとって離れなかった。それは戦乱の時代に生まれた二人の宿命とも言えた。心の底から幸せで穏やかな時間は、ものを知らぬ幼子だった時代から、もう何年も訪れていなかった。
 今回の戦でレアゼン砦の総大将を務めていたヨナディオは、まだ二十二歳と年若かったが、兵士達の士気を鼓舞するため、王子でありながら常に前線に立ち続けていた。
「シトリー、ごめんね……僕はいつも、君を戦場に立たせてしまう」
 二人きりのとき、ヨナディオはシトリューカを愛称で呼んでいたという。彼がシトリューカの策の見事さを褒めることは、一度もなかった。戦の勝利は、失われた命の上にしか成り立たぬものだ。それがたとえ敵の将兵のものだけとしても、シトリューカは、それを喜ぶような人ではなかった。
「あなたは悪くないの、あなたは……」
 戦が起こるからいけないの、とシトリューカは答える。ヨナディオは表情をさらに曇らせた。
「これから、戦いはより過酷になる。東のギオークは次々に周辺国を併呑していっている」
「ええ……、ギオークの将軍は無慈悲で恐ろしい人だと聞いているわ。それに、とても戦上手だと」
 ヨナディオは黙って頷いた。
「彼らが本気でゼアテマに攻めてきたら……僕たちには勝ち目があると思えない。そうなってまで、君が戦場に出ることはない」
「いいえ、ヨナディオ。私が戦うのは、私の意志よ」
 ミゼルに言ったのと同じことをもう一度口にする。生来シトリューカは、戦など好まなかった。それでもなお乙女が剣を取るのは、愛するヨナディオを勝利に導き敵から守るため、ただそれだけの理由だ。たとえその胸が痛んでも、愛する人のためにできることがあるのならば、彼女に迷いは何一つなかったのだ。
「何があっても最後まで、あなたの傍で戦いたいの」
 シトリューカの健気な言葉に、ヨナディオも愛しさが募ってしまう。
「シトリー、戦が全部終わったら、このリオラントに平和が訪れて、そのとき僕たちも無事でいられたら、――」
 その後は、もう言葉にならなかった。
 戦の後の心の疼きと、愛する人のぬくもりに包まれる、二人だけの夜。
 大きな満月だけが、冷たい闇を放ちながら、それを見ていた。


 何もかも、計算通りに運んでいた。
 黒い甲冑を纏った将軍が目にした狼煙は、その地点をボンサンジェリーの主軍が通過したことを示す。彼らは既にゼアテマ国境から撤退を始めているようだが、まだこの近く――ボンサンジェリーの首都、バエンニュラ近郊までは帰っていない。黒い兜の下から、将軍の冷徹な笑みが覗いた。
「早いですな。少し早すぎるようだが。ヴァルカン将軍、もしや脇腹を突かれはせんだろうか」
 横から、もうひとりの将軍が口を出した。黒い鎧の将軍――ヴァルカンと、どちらも長身だが、ヴァルカンはすらりと細い体つきであるのに対し、彼は篝火と同じ色の鎧を纏った重戦士であった。
「むしろ早すぎるから良いのだ。さしずめ、戦場の女神の策に翻弄され、ろくに戦わせてもらえぬままの敵前逃亡といったところだろう。意気沮喪した軍など、恐れるに足らぬ」
「……そうですな。そのうえ、都が急襲されたとなれば、将兵も心中穏やかではありますまい」
 ほとんど敵兵を憐れむかのような調子である。
「不服か? ザンチ将軍」
赤い鎧の将軍――ザンチは、不快さを隠そうとせずに答える。
「率直に申し上げて、どうもこういった戦は性に合いませんのでな。まるで空き巣の手口ではないか」
 ヴァルカンは鼻で笑った。
「戦に好悪など、不要。我々ギオーク軍人は、ただ最も有益な手段で皇帝陛下の御威光をこのリオラントに普く顕揚致すのみ」
 ザンチはむっつりと黙ってしまった。ヴァルカンが立ち上がり、掲げた右手を振り下ろす。それが進撃開始の合図だった。
 かくてギオークの黒い大軍は、月夜の闇を纏って暗黒の海嘯そのものとなった。それは主軍不在で手薄となっていたボンサンジェリーの都に容赦なく襲いかかった。そしてわずか数日のうちに、兵も民も、街も畑も、そして王と王の城に至るまで、完膚なきまでに蹂躙しつくしたのであった。


 ――おや、もうこんな時間なのか?
 悪いねえ、私はそろそろ行かなくちゃならなそうだ。
 何、とっておきの歌物語って、たったそれだけかって? そんなわけないじゃあないか、まだ話は始まったばっかりに決まってる。
 続きを話してあげたいし、私も聞いてもらいたいんだが、私らはひとところにじっとしてはいられないんだよ。続きは、また次の機会にしちゃあだめかね?
 そうだねえ……それじゃあ、次の満月の夜に私はここに戻って来るよ。
 そのときにあんたがここにいれば、今日の満月の導きに感謝しよう。
 そうでなければ、単なる通りすがりだったってことさ。お互いに、ね。

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2011'11'15(Tue)22:14 [ 本編/ムーンライト・ミンストレル ] . . TOP ▲