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ヴェトラフ・ウント・クラフ/4「ザイン・フロイント」3
そういえば書いていたのにすっかり更新しておりませんでした。

最近来られた方のために書きますと、うちのサイトでの本編公開は
とりあえずブログにUP→ある程度寝かせたら加筆修正してサイトの各創作ページに転載
(左フレームのリンク先です)という形になっております。

VUKに関して言いますと……
今のところ1「マイ・ドリーム」~3「ヒルフローゼ・レーゲン」までは
サイトの創作ページでまとめて読めます。
4「ザイン・フロイント」の3ページ分が、まだサイト未転載の状態です。


まだそれほど書き進んでいないので、よろしければ読んでやってください。
ついてくるなら今のうちなんだからねッ……///

というわけで~、続きから久しぶりの本編! どぞー。

 ヴェトラフの唯一の友人。
 彼の名前はルドルフ・フォン=ヴェンゾール。切れ長の目と、細い顎と、肌の色を見るとアジア系だけど、名前は完全にヨーロッパ系だ。このレコードショップの店員(たぶん他に店員が居なさそうなので店長なのだと思う)なんだそうだ。ヴェトラフがヴェンゾールと呼んでいるので、僕もそう呼ぶことになった。
 彼は丸いサングラスをかけていた。(おしゃれなのかどうなのか、僕に判断はできなかった。ちなみに本人いわく、サングラスとTシャツはたくさん持っているらしい)真っ赤な髪は、2週間に1回染め直すらしい。最近はインターネット通販で大儲けなんだとか……。とにかく、よく喋るお兄さんだった。もっとも、お兄さんという年齢なのかどうかは分からない。確かに見た目だけなら20代くらいに見えるんだけど、どことなく人生を悟りきったおじいさんのような雰囲気も併せ持っている。不思議な人だ。
 ヴェトラフは友との再会をたいして喜ぶこともせず、眠いと言って3階に上がったけど、僕は2階の部屋に上げてもらえた。ここはお店ではなく、彼の部屋のようだった。でも、さすがレコードショップの店員、部屋中レコードとCDだらけだった。僕が座らせてもらったソファの反対側の壁際には、とんでもなく高そうなオーディオセットが置かれていた。
 ちょっと口調がくどいけど、愛想がよくて親切な、いい人のようだ。誘拐されてやってきたとはまるで思えない好待遇だった。
「ヴェンゾール、どうして君みたいな人が、ヴェトラフなんかの友達なの?」
 僕が自分の膝に顔をうずめて質問すると、ヴェンゾールはまともに取り合わずに笑った。
「それは、そのうち分かるッス」
 そう、この感じ。それ以上の追及を許さない、静かだけど迫力のある笑顔が、ヴェンゾールを外見よりも老成した人物のように見せていた。その笑顔だけは、正直少し怖かった。忘れてはいけない。どんなに親切でいい人に見えても、ヴェトラフを匿っている以上は、彼も犯罪者なんだ。
「そんなことより、クラフ君は、どんな音楽が好きなんスか? なんでも好きな音楽を聴かせてあげるッスよ! あ、これなんかどうスか? 今フランスで大人気のテクノポップユニットッス!」
 ヴェンゾールはさらりと話題を変えた。
「親切にありがとう、ヴェンゾール。でも今は、テレビが見たいんだけど、だめかな?」
「もちろんテレビもあるッス! 何が見たいっスか?」
 オーディオとは逆で、テレビは信じられないくらい旧型だった。いまどき、頭からアンテナが立ってるダイヤル式のテレビなんて、博物館でもそうそうお目にかかれるものじゃない。
「よかったら、ニュースを見せてもらえる?」
 ヴェンゾールはお安い御用と言ってチャンネルを合わせてくれた。はじめは画像が激しく乱れてたけど、ヴェンゾールが側面を2、3回叩くと、なぜかちゃんと映るようになった。民放のニュース番組だ。ちょうど、ヴェトラフのことを流していた。
「ヴェトラフについての続報です。ヴェトラフは、昨日午後5時頃、ザグリン市モンダイン通り3番地付近で、男子高校生一人を誘拐し、ワルコワ方面へ逃亡中との事です。誘拐されたのは、クラフ・ストレーゼフ君15歳……」
 僕の学生証の顔写真が出たのでびっくりした。ヴェトラフの顔写真は出ないのに。
「目撃した人の証言によると、ヴェトラフは丸腰だったそうですが、警察官二名の追っ手を振り切り、クラフ君を連れ去ったということです。ザグリン支署は、『捜査や追跡行動に問題は無かったが、結果的に誘拐を阻止できなかったことは大変遺憾である』とコメントしています」
 ヴェトラフが空を飛んで逃げた、という情報は欠落していた。
 アナウンサーが原稿を読み終わると、横に座っていた太ったコメンテーターが、訳知り顔でこう切り出した。
「刑事が二人もいて、いったい何をやっていたんでしょうね。凶悪殺人犯に怖気づいたのでしょうかね? ヴェトラフの姿も分からないのに、こんなことでは国民皆不安でたまりませんね、それに、そもそも脱獄をどうして防げないのかという疑問も――」
 ヴェンゾールが肩をすくめてテレビを消した。僕もそう頼もうとしたところだった。
 まるでカラスさんたちが悪いみたいな言い方だ、何も知らないくせに。だいたい悪いのは全部ヴェトラフじゃないか。
 カラスさんが気の毒だった。きっと、今頃いろんな人たちに叱られ、頭を下げまくっているんだろう。僕が人質になっていなければ、カラスさんはあの不思議な力でヴェトラフと戦えたかもしれないのに。そしたら、ヴェトラフを逮捕できたかもしれないのに。
 僕はまた気を許しそうになっていた自分に腹を立てた。たとえ、その相手がヴェトラフには到底似つかわしくない親切な友人、ヴェンゾールだとしても。

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2012'09'27(Thu)22:12 [ 本編/ヴェトラフ・ウント・クラフ ] . . TOP ▲