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ヘヴンズ・セヴン/第5章「不良聖人・下」 3
放置しすぎの後の突然の本編

きっとまた直しに来る。
だいたい思いつきで書いてるからな!

いい加減ですいません。。。
続きから。


 翌、グランシア暦1500年4月3日早朝。
 アシュリオよりも先に、ゼノが目を覚ました。反省室の中が薄ぼんやりと明るいことに気がつく。ゼノは身体を起こさずに、首を少しもたげてベッドの上を見た。ティエルもまだ眠っているようだ。しかし、ゼノの隣で寝ていたはずの影閃は、すでに布団の中にいなかった。
 影閃は身なりを正して机に向かって立ち、ささやくような声で一心に何かを唱えている。机の上には、昨日の晩にはなかった小さくて古ぼけた銀の彫像が置かれていた。十字架を抱いた髪の長い人物が象られているが、男性なのか女性なのかは判然としない。これがやわらかな光の源であるらしいが、反射する光があるわけでもないのに、何故光っているのかゼノには見当がつかない。
 不思議な灯りと、朝の静寂。影閃の後姿とささやきは、はっきりと際立っていた。
 神よ、俺はどうなっても構わない。どうか、この僧院と――
 ゼノは耳のピアスを撫でた。「通訳機能」が停止した。異世界の言葉は、早すぎた朝の空気のさざめきに変わった。
影閃が振り返ったときには、ゼノはもう目を閉じていた。影閃は引き出しの中に彫像をしまい込む。吸い込まれるように、光は消えていった。


 食堂で朝食を済ませた。黒い柄の鉄槍を持った影閃と、鎧を着込んだアシュリオは、明らかに場に馴染んでいなかったが、まばらにいる僧侶たちは皆見て見ぬふりを決め込んでいた。触らぬ神に祟りなし、不良坊主は無視をするに限る。そういうことなのだろう。
 客人のアシュリオたちの分もちゃんと朝食が用意してあることを、ありがたいと素直に思う。もちろん肉は入っていないが、食うや食わずの生活を送っていたアシュリオにとっては素晴らしいご馳走だ。
 自分がすべきなのは、僧侶になって死者のために祈ることではない。いまこの国に生きている人々を救うことだ。それで自分の犯した罪が償えるとは少しも思わない。ただせめて、一宿一飯の恩義――すでに二泊目だが――に報いたいと思う。
 ……とはいえ、最大の目的はやはり神聖白金貨である。
 アシュリオの内には、アルトゥールの人々の役に立ちたい真摯な自分と、喉から手が出るほど金が欲しい自分とが矛盾なく同居している。無償ではバルゴル退治に乗り出せない自分を、不謹慎だとも思う。
 しかし、アシュリオはこれから自分の力で生きていかなければならない。何があっても。自分を生かすべく失われた命のために。そして、今でも自分を慕ってくれていた、あのクレシア島の騎士たちのためにも。
 ……そのためには、どうしたって先立つものが必要なのだ。
 たとえ裏側にどんな真摯な想いがあっても、お金に結びつくと全部言い訳じみて潔くない。アシュリオはもう考えるのをやめた。いっそ開き直ってしまったほうがすがすがしいじゃないか。そうさ、俺はお金が大好きなんだ! 何か文句ある?
 バルゴルがどれくらい強いのかは分からない。が、勝算はあるとアシュリオは分析していた。なぜなら、こちらにはゼノがいるからだ。ゼノは手負いの状態でも、あのガナッツ先輩を手玉に取るほどの強者なのだ。ゼノさえいれば、なんとかなるだろう。
 そして、影閃によるとバルゴルはかなりの巨体なので、動きはそれほど機敏でないという。きっと最悪の場合でも、逃げ帰ることはできるだろう。現に昨日、影閃はバルゴルと戦って手傷を負わされてはいたものの、生還している。アシュリオは自分の剣才の乏しさを重々自覚してはいるが、逃げ足の速さにならそれなりに自信がある。
 ただ、心配なのが――
「さあ! 行くわよ! バルゴムをやっつけに!!」
「バルゴムじゃなくてバルゴルだよ、ティエル」
 戦闘能力未知数、というか、果てしなく当てにならないお嬢様、ティエルである。
 アシュリオは今日のティエルの出で立ちをそれとなくチェックした。さすがお嬢様、着替えはたくさん用意していたらしく、今日は昨日とは違う服を着ている。が、それはかわいらしい水色のブラウスとスカートだった。靴も家出時に履いていたのと同じ、白いリボンのついた踵の高い靴だ。とても戦闘向きとは思えない。
 ティエルは護身用の武器として木製の杖を持ってきているのだが、それが何より彼女の魔法の腕前を雄弁に語っていた。優秀な魔道士ならば、武器など持ち歩く必要がないのだ。
「ティエル嬢ちゃん……本当についてくるのかい? 命の保証はできないぜ?」
「私があなたについていくんじゃないわ、影閃。あなたが私についてくるのよ! もちろんゼノも、アシュリオもね」
「はいはい……」
 アシュリオはため息をついた。雇い主のティエルに何かがあっては元も子もないし、バルゴルとの戦闘はゼノと影閃に任せて、俺はティエルを守ることに専念しよう。


 戦いの決意を固めたアシュリオだが、彼は何を思ったか、食堂を出てまっすぐ出陣しようとする影閃とゼノの袖を引いた。引き止められた二人は出鼻を挫かれた格好だ。
「どうした。行かないのか」
 ゼノが低い声で聞く。
「行くけど、もうちょっと待ったほうがいい」
 隣を見ると、ティエルもこくこくと頷いている。ティエルにも「わかる」のだ。
「おい、なんだなんだどうしたよ? あんたら、まさか今更怖気づいたんじゃないだろうねぇ」
「シッ、声がでかいよ、影閃」
 影閃の声は広い廊下によく通った。いまさら注意を促してももう遅い。気付かれてしまった。さっきまで遠くにあったその「気配」が、急にこちらを認めて、ぐんぐん近寄ってくる。
「影閃? みなさんを連れて、どこに行こうというのです?」
 気配に色があるとしたら、きっと彼女のそれは純白だろう。気高く優美で、それでいて柔らかな真珠のような。ここでいう「気配」とは、つまりは人間から滲み出ている魔力のことである。
 大僧正ミィナ・アグレイルが、今日もまたお勤めをさぼろうとしている影閃に気がついて駆け寄ってきたのである。彼女は白塗りの錫杖を水平に持ち、影閃の行く手を阻む。影閃は露骨に舌打ちした。
「ああっ、えーとっその、ボクたちちょっと観光をしたくて影閃さんに案内をですね」
「決まってんだろ? 狩りに行くんだよ、狩りに」
 アシュリオの口から出まかせを無視して、影閃は正直に答えた。その顔には、昨日見た不敵な作り笑いがよみがえっている。ええっ言っちゃうのかよ、とアシュリオは情けない声を上げた。
 ミィナの眉がみるみる吊り上がって行く。
「冗談はおよしなさい! 旅人の方々まで塀の外へ連れて行くなんて、あなたは何を考えているの!?」
 怒った顔もまた素敵だなあ、などとつい見とれてしまうアシュリオを尻目に、ティエルが口を挟む。
「怒らないで大僧正さん! 影閃は、なにも無駄な殺生をしようというんじゃないの。狩りは狩りでも、モンすっ」
 影閃の大きな手がすんでのところでティエルの口をふさいだ。
「今日は魔物調伏の祈祷会です。あなたも参加してちょうだい」
 若き女大僧正が厳しく言いつけるが、影閃は聞く耳を持たない。彼はミィナを無視してやり過ごそうとするが、ミィナはしつこく立ちふさがる。影閃はティエルの口から手を離してミィナを押しのけた。ミィナが小さな悲鳴を上げる。彼女の錫杖が手から滑り落ちて、カシャンと大きな音を立てた。彼女は体勢を崩し、床にくずおれてしまっていた。
 アシュリオは影閃の顔を見た。咎める言葉が口から出かかっていた。女性を突き倒すなんて、いくらなんでもひどすぎるだろう。――しかし、影閃もびっくりしたような顔をしていた。だからアシュリオは、影閃にミィナに乱暴するつもりはなく、少々力加減を誤っただけなのだと悟った。
 ミィナは座り込んだまま、影閃を見上げた。その瞳はまるで助けを求めるように頼りなく、潤んでいた。だが、ミィナの視線が影閃をとらえたとき、影閃は冷ややかな目をして彼女を見下ろしていた。
「あんたはせいぜい安全なとこでお祈りでもしてろよ。『神様、どうか私の命がモンスターに取られませんように』ってな。――おい、さっさと行くぜ」
 言い捨てて、ミィナに背を向ける影閃。ゼノは表情ひとつ変えずそれについていく。
 ティエルがミィナに手を貸して立ち上がらせる。ミィナは一言「すみません」と謝ってうつむいてしまった。
「あの、本当にちょっとだけ外へ出るだけですから。危ないことはしないです。それじゃ」
 いたたまれなくなってアシュリオは思わず嘘をついた。ティエルと一緒にそそくさと立ち去りながら、彼は思う。
 俺には、影閃みたいな嘘はつけない。


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2013'09'16(Mon)22:18 [ 本編/ヘヴンズ・セヴン ] . . TOP ▲