Our York Bar  
07≪ 2017| 1234567891011121314151617181920212223242526272829303108/ ≫09
【読了報告】木村凌和『この夜が明けたら』
木村凌和さん『この夜が明けたら』を読みました。
テキレボ4の戦利品で、木村さんのご本を読むのはこれが初めてです。
夜の海上を飛ぶメタルの翼を持った少女たちの物語10編に、書き下ろしの「光のこうざい」が加えられて合計11編の短編が収録されています。
表紙の美しい写真は、なんと木村さん自身によるものだそうです。すごい!
実はテキレボ4直後に少しだけ読んでいて、好きな感じだったので昨年11月の文フリより前に別の本も買わせていただいたのですが、テキレボ5でお伺いしたときは折悪しく離席されているときで、また後で伺おうと思っていたらそのままになってしまい、非常にくやしい思いをしました。
次こそは必ずお伺いします……と、心に固く誓いつつ、感想は続きからです。






物語はこんな書き出しで幕を開けます。
「メタルでできた翼が冷たい。」
短い中にもその翼が少女たちの生まれもったものではないことと、後から設えられたものの異物感を示唆していて非常に印象的です。
(「金属」じゃなくて「メタル」なところがすごく好きです。無機物なのにぎりぎり無機物ではない感じがあるような、翼に対して最低限の親しみがあるように感じました)

少女たちはなぜ飛ぶのか、という疑問に対しては、一応は答えが与えられています。翼は大人たちによって与えられたもので、「同じように飛んでいる者を見つけたら報告せよ」と命令されているのです。
しかし、それがいったい何者なのかについては、少女たちには知らされていません。
翼といっても風に乗るための形状が与えられているばかりで、うまく風に乗れなければ海に落ちてしまいます。
事実、たくさんの少女が海へ落ちていくのですが、それでもなお大人たちは少女たちを飛ばせるのです。

「ただ前だけを見て。後ろを見たら死んでしまう」

少女たちにとって、翼とは何なのでしょうか。
空を飛べる力。大人に押し付けられた重荷、異物。
少女が大人になったら取り払われるそれには、多面的な寓意が込められているようにも思います。
もちろん、物語は物語上に現れるそのものを味わえばいいのであって、一つ一つのモチーフが何かの仮託だと決めてかかるのは乱暴な読み方だと思うのですが、私には翼を持たされた少女たちのすがたは、自分にも思い当たるふしがあるような気がしました。
私がこの世界の少女だったならば、きっと何の疑問も持たずそこそこ上手に楽しく空を飛び、後ろを見て落ちることもなく、また落ちていく仲間たちに特別な感傷も抱かず、そのまま大人になったでしょう。菜知にも叶にも、請海にもなれないタイプ。(=お話にならない)
いまはもう陸にいるから後ろを見られるけれど、そのときは前しか見ていなかったし、振り返る必要も感じていなかったな、とかつて少女だったオバ……オネエさんは考え、そんな風にして物語が自分の人生を触りに来る感覚を嬉しく思うのでした。

ここでは「翼」を中心にした感想を書きましたが、物語は他にもさまざまな要素から成り立っており、多様な読み方に対して開かれた作品だと感じました。
中盤からは驚くような展開も待ち受けていて、おそらくフリーワンライのお題によるものかと勝手に推測したのですが、そんな即興的な味わいも(本になるまでには、丁寧な推敲がなされているものと思いますが)本作の醍醐味といえます。
寓意を探らなくても、書き下ろされた「光のこうざい」によってまとまったひとつのSF作品として楽しむことができますし、木村さんの文章それ自体がしみじみと味わい深く鑑賞できるものだと思いました。

テキレボ6、テキレボ6では他のご本も絶対買うんや(ぶつぶつ)

スポンサーサイト

2017'04'11(Tue)21:15 [ 同人誌の感想 ] . . TOP ▲