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今日までに書けた分のヘヴンズ・セヴンをちょこっと
続きに格納。
※テトラグッズは一個前の記事です

あ、ブログには小説の最新が載ってるとは限りません。
今日やったぞ!という報告がてら載せてるという感じです。すみません。
VUKもぜんぜん載ってませんしね。
今日も本当はもうちょっと書いてる。というか、前の手直しだけど。。。

ちと更新しに行こうかな~♪。

「待て、逃げるな、カルトラッシュ!」
 アシュリオは逃げる「彼」を追って、ヤクソウタンポポの花畑に入っていった。
 「彼」は、いま一面の花の中に座り込んで荒い呼吸を整えている。「彼」を捕まえる絶好のチャンスだ。アシュリオは息を殺し、「彼」に音もなく忍び寄った。張り詰めた空気が辺りを包み込んだ。アシュリオと「彼」との間の距離は徐々に徐々に縮まっていく。1歩、2歩、3歩、4歩、5歩……、今だ!
 アシュリオは「彼」に跳びかかった。


「まあ! カルトラッシュ、どこ行ってたのよ、心配したわ!」
 でっぷりと太ったおばさんが瞳をうるうるさせながら、主そっくりの体型の猫を抱いている。その姿を見つめるアシュリオは、体中泥だらけで、げっそりしている。
「傭兵見習いさん、本当にありがとうございました! これ、約束の代金です。どうぞ、受け取ってください!」
「はあ、どうも……」
 袋の中身はシルバー5枚。朝から3時間以上走り回って、ようやく得た報酬は、すぐに昼食で消えてなくなる程度の金額でしかなかった。しかしそれが傭兵見習いの妥当な依頼料の相場であるのだから仕方がない。
 ここはクレシア村、傭兵事務所。アレスティア大陸の遥か北方に位置するクレシア島に唯一設置された、王立の傭兵事務所である。
「せんぱーい……」
「ああ、アシュリオ、終わったか。お疲れ」
 所長が振り返った。銀の眼帯で右目を隠した隻眼の美青年だ。彼は前の騎士団長、ライゼル・ガナッツだった。
「本当に疲れましたよー! 大体、俺たちは曲がりなりにも傭兵なのに、なんで猫の捜索なんてしなくちゃなんないんですかね……」
「仕方ないさ、この田舎の村じゃ、ほかにどんな事件が起こるっていうんだよ。それに」
 ガナッツはアシュリオの鼻を突っついて、からかうように付け加えた。
「お前は、傭兵じゃなくて傭兵見習い、だろ」
 楽しそうに笑うガナッツを見て、アシュリオはため息をついた。
「なんか、もっとワクワクするような依頼、来ないんですかねぇ……」
「たとえば?」
「金字塔遺跡の内部調査とか、ネフィスの大海獣捕獲作戦とか――それか、怪盗さんが予告状を出してきてくれたらいいのになぁ」
 聞いてガナッツは大笑いした。
「そんな不謹慎なこと言ってると、領主様に叱られるぞ。さあ、愚痴ってる暇があるなら剣の修行でもしてきたらどうだ? 今のままだと、一生見習い止まりだぞ」
「……はーい」
 アシュリオは事務所の裏にある訓練場に向かった。そこで、えい、やあ、とう、と、安物の銅剣を振る。が、そもそも、アシュリオは魔道士であって剣士ではなかった。人には向き不向きというものがある。アシュリオに剣は不向きであることを、その太刀筋が何よりの証明だった。
 アシュリオはまたため息をついた。早々に訓練を切り上げて、家で昼食を摂ることにした。彼の住居は、訓練場のすぐそばの長屋の小さな部屋だ。ここではアシュリオやガナッツたち、クレシア島の傭兵7人が生活している。
次の仕事はまったく未定である。さっきの銀貨をいきなり使うのはもったいない。昼食は、昨日他の傭兵に分けてもらった卵を焼いて済ますことにした。早速狭いキッチンに立って、フライパンの上に卵を割る。
「火の精さん、火の精さん……俺においしい目玉焼きを作らせてください。『ファイア』」
 アシュリオは呪文を唱えた。――しかし何も起きなかった。3度目のため息をつく。
 アシュリオは、ずば抜けて優れた魔道士だったはずだった。しかし、こんな初歩的な魔法でさえ、今の彼にはうまく使えなくなっていた。
 仕方なく、ガナッツに書いてもらった代理魔法の札を振る。コンロに火がついた。が、調味料がほとんど切れていたことを忘れていた。
 さっきの銀貨は塩代に消えそうだ。アシュリオは、味のない目玉焼きを食べながら、4度目のため息をついた。


 クレシア島へ配流されてから4年間、「王子様だった人」の生活は極めて困窮していた。
 アシュリオがイゼルレアによって流刑を宣告されたあの日の晩、ガナッツと忠義心厚い騎士団員たちはすぐに辞表を書いてイゼルレアに叩きつけていた。
 ちょうど、クレシア島の自治領主から、傭兵事務所を開設してほしいとの嘆願書が届いていたので、イゼルレアは彼らをまとめてアシュリオと同じ場所に左遷することに決定した。――それが、現在の傭兵仲間達である。
 ガナッツの権限で、アシュリオは傭兵事務所に雇ってもらえることになった。だが元々騎士団員だったガナッツたち他の傭兵と違い、年も若く剣も魔法もうまくこなせないアシュリオは、まだ見習いの扱いであった。警備や用心棒の依頼は受けられない。それで、今日のような猫探しや、村人の雑用代行くらいしかこなせない。そしてそういう仕事は、わざわざ金を払って傭兵事務所に頼むほどのことでもないものが多く、結果アシュリオには仕事があまり回ってこないのだ。少ない基本給と、ガナッツたちが分けてくれる食べ物で、なんとか食いつないでいるような状態だった。
 アシュリオはいまヘイスという母方の旧姓を名乗っているし、この島で彼がかつて王子だったことを知っているのは傭兵たちだけだった。もう王位になど興味はないが、一生逃げ出した飼い猫を捕まえてその日暮らしの生活を送るような人生は、御免被りたかった。
 アシュリオは目玉焼きをきれいに食べ終わった。もちろん、17歳の彼がそれで満腹になるはずもなかった。
「あーあ、せめて早く立派な傭兵になって、ワクワクするような仕事がしたいなあ……」
 グランシア暦1500年、3月31日のことであった。

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2010'07'19(Mon)22:06 [ 普通の記事 ] . . TOP ▲