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ヴェトラフ・ウント・クラフ 4「ヒルフローゼ・レーゲン」
私以外別に誰も得しない妄想あふれるバトンはこの下の記事です。


たまには小説も上げないと、と思い、ストックを一本上げてみました。
ここはカラスの一人称です。

タイトルは「救いのない雨」(独)
大学時代はドイツ語とってましたが、読み方はいつもテキトーです。
英語ドイツ語はまだしも他言語はだいぶあやしいです。
調べてはいるけどさ。。。



それではお暇ならば続きをどうぞ。

4「ヒルフローゼ・レーゲン」



Karras

「とんだ失態だな、カラス警部!」
 刑事になって20年。
 今日の報告は、相棒だったロイが死んだ時以来の、痛恨の報告だった。ザグリン支署に帰って早々、私とロエヴェは、立ったまま署長の長い説教を聞かされる羽目になる。
「目の前でヴェトラフに人攫いをやらせるなんて、一体何の為に本庁から来たのかね!?」 
 そんな事は、署長に言われるまでもなかった。署に帰るまで、何度も自分で自分に訊いた問いだ。私は、何の為に刑事をやっている? 善良な一般市民を、それもよりによってロイの息子を、目の前であのヴェトラフに誘拐されるとは。
「これでは、我がザグリン支署の面目も丸つぶれだよ、まったく!」
「……申し訳ありませんでした」
 私は溜息を押し殺した。結局、私には謝るしかない。真に謝るべき相手が誰か分かっていても、わざと間違えなければならない事もある。
 あの日、ヴェトラフにつけられた眉間の傷が、嫌に疼いてくれる。これまでにも雨の日は何となく痛みを思い出すこともあったが、今日は一段と酷かった。
 今夜はまともに眠れそうにないだろう。


「カラス隊長、申し訳ありませんでした。僕が、あのときヴェトラフを撃っていれば……」
 ロエヴェは私に謝ってきたが、取り合う気さえしなかった。
 私たちは応接室へ向かった。そこにクラフの従兄にあたるラドニス少年を待たせていた。
 ラドニスとは面識は無かったが、如何にも優等生だという印象を受けた。制服も着崩しておらず、礼儀正しく挨拶をする。聞けば彼は学校で生徒会長をやっているらしい。成程、成績優秀で品行方正、それに均整の取れた顔貌を見れば、他の生徒からさぞや人気者に違いなかろうと思う。
 だが、私は少し彼を気味悪く思った。何故なら、我々が応接室へ入ったとき、彼は参考書を開いて、熱心に勉強していたからだ。無論、ガリ勉だと馬鹿にしているのではない。ついさっき、自分の目の前で、兄弟同然に育ってきた従弟のクラフが連れ去られたばかりだというのに、少しも意に介していないように見えたのだ。
 私はラドニスにヴェトラフが現われたときの状況を聞いた。
「クラフが万引きしてて、びっくりして、僕、思わず逃げてしまって」
 後はロエヴェが見たのと全く同じような事を証言していた。
「まさか、ヴェトラフに脅されていたなんて……。僕、クラフが万引きなんか、するはずないと思ってました」
「そうだな。私もそう思うよ」
 終始、彼は平然としていた。
「ご協力ありがとう。ラドニス君、一つ約束して貰いたい事がある。今日見たものは、一切他言しないようにして頂きたい。ご両親にも、先生やお友達にもだ」
 ヴェトラフの目撃者に言うお決まりの台詞だ。
「刑事さん、あれは何なんですか? 人間から、翼が生えているなんて、あれが、ヴェトラフなんですか? 刑事さんだって、指を振っただけで街路樹が切れるなんて――」
「申し訳ないが、君に話すことは出来ない」
 ラドニスは少し眉を顰めた。
「……分かりました。どうせ誰かに言っても、信じてもらえないだろうと思いますし」
「ご自宅までお送りしよう」
「いえ、結構です。父が迎えに来ることになっていますので、それでは」
 彼は丁寧に挨拶をして、この場を辞しようとしていた。
 それを、ふと私は呼び止めた。
「ヴェトラフはこの10年、数え切れない程の罪を犯している。殺人、殺人未遂、傷害、強盗、強盗殺人、窃盗、脅迫、そして脱獄。野放しにしている限り、ヴェトラフはこれからも罪を犯し続けるだろう」
「ええ」
 ラドニスは、何故そんな話をするのか、という顔をしている。
「だが、たとえ彼が死ぬまで捕まらなかったとしても、どんな生き方へ転んだとしても、絶対に犯さないだろうと思われる罪が二つある。一つは強姦だ。彼はあまりそういう欲望を持ち合わせていないらしいのだ。では、もう一つは何だと思う?」
「……分かりません」
「教唆罪だよ。検事になりたいという君なら知っているだろう」
 このとき初めて、ラドニスは顔色を変えた。
「ヴェトラフは極悪人だが、脅迫はしても、他人に自分の代わりに罪を犯させたりするような奴では無いと思っていた。それも万引き如きを――『如き』などと警察官が口にすべきではないが――ともかく、それをクラフ君にやらせたのは、一体何故だろう、と思ったんだが……」
 私は彼の顔をじっと見た。ひどく蒼白になっていた。
「いや、ただの独り言だ。気にしないでくれ」
 彼は青ざめた顔のまま、もう一度挨拶をして帰っていった。
 できることなら、クラフが誘拐されたときから、そういう顔をしていて欲しかった。そう思うのは、私の勝手だろうか。
 我ながら、つまらないことを聞いてしまった。


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2010'08'03(Tue)22:02 [ 創作日記 ] . . TOP ▲
    


     


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