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ヘヴンズ・セヴン第2章「傭兵の仕事」4
体調がここ最近グズグズしております。なんぞこれ。

とりあえず、ヘヴンズ・セヴンの最新までのっけときました。
続きにゼノ登場の第2章の4が入ってます。長くてごめんちゃい!

拍手ありがとうございます!
お返事しようかと思ったのですが、まだまだ不確定情報そうなので了解いたしました! とだけ電波しときます。
SWの参加者さんがどんどん増えるといい!

コメなしでの拍手もありがとうございます!
とてもやる気がでます。まんまん。


それでは、よろしければ続きをどうぞー!

 男は、まるでガナッツに追いつめられていることなど少しも意に介していないかのように、丸腰で堂々と立っていた。きれいに撫で付けられた髪にも、軍服にも、少しも乱れがない。胸に軍章らしいものがついているが、その意匠はアシュリオの記憶にはない。年齢は自分より少し上といったところに見える。しかし、白いマントを身に着けているし、おそらく指揮官級か、それ以上の地位にある人物だろうとアシュリオは推測した。そう思わせる風格も、男は十分に持ち合わせていた。
 そして、彼がそれを生まれつきの偶然で手に入れたなどとは到底信じられないほど、美しい顔立ちをしていた。目も、鼻も、口も、あるべきところに、あるべき形と大きさで備わっていた。つまりそれは、人間の男の美の模範体系とでも形容し得るほど、完璧な容姿だった。だが何よりも美しかったのは、常緑樹の深い緑をそのまま写し取ったかのような、男の瞳だ。
 その瞳は薄暗い森の中でも光を放っていた。男はかなりの長身で、自然とガナッツを見下ろす格好になっていた。ガナッツは厳しい表情で、それを睨み返す。
 あのガナッツが剣を抜かされている! アシュリオにとっては、それだけでも驚きなのに、丸腰の男の方がガナッツよりも圧倒的優位に立っているように見えるのは、全く理解できない状況だった。
 ガナッツは遺跡を背にして立ち、男はそれに正面から向き合っていた。彼はガナッツの目を見据えて何か言った。どこの国の言葉か分からない。ほぼ世界共通言語となっているアレスティア語とは、全く違う言葉だ。ただ、男の表情や声は落ち着いている。
「何を言っているのか分からないが、とにかく、大人しく傭兵事務所まで来てもらおう。お前の話を聞くのはそれからだ」
 ガナッツの言葉もまた、男に通じていないようだった。男はため息をついて、諦めたように両手をかざした。その手が一瞬まぶしく光った。アシュリオは思わず目を閉じた。目を開けると、男の両手には剣の形に象られた、水色の光が握られていた。たしかにそれは剣のような形をしている。しかし剣ではなく、光だ。実体はない。
「……ギムシナの魔法剣?」
「違う、あれは」
 ガナッツはアシュリオの呟きを否定して、男に切りかかった。目にも留まらぬ速さだった。ガナッツは本気だ。アシュリオの知る限り、ガナッツの剣を止められる者は、騎士団の中でも副団長を務めていたケンペルくらいのものだった。だが男はそれを左手の剣でやすやすと受け流し、右手の剣を差し向けた。ガナッツはそれをかわして第二撃を繰り出すが、これも男を捉えられない。凄まじく、猛烈な斬り合いが繰り返される。男の双剣が振り下ろされた。ガナッツは右へ逃げて、その背後にあった遺跡の封魔の鎖が男の剣によって断ち切られる。ということは、男の剣の正体は魔法剣ではない。
 ガナッツは男の隙をついて、すばやく懐にもぐりこんだ。勝負あったかに思えた。
 が、いつの間にか、男の持っていた二本の光の剣は、ガナッツの背後に切っ先を向けて空中に浮いていた。
 また男が何か呟いた。
「先輩!」
 アシュリオが叫んだ。ガナッツはもはや動けない。ガナッツが男を刺すよりも速く、剣はガナッツの体を貫くだろう。だが男はそうせず、ガナッツに何か話しかけていた。その内容はやはりわからない。
 しばらく膠着状態が続いた。もちろん、アシュリオもティエルも動けない。 だが、光の剣は、果たしてガナッツを傷つけることなく消滅した。
 男は突然表情を歪めてその場に膝をつき、そして倒れた。今まで気がつかなかったが、突然錆のような嫌な匂いが鼻を付いた。男の左の脇腹が、血に染まっているのに気がついて、アシュリオは息を呑んだ。
「ひどい怪我じゃない! 早く手当てをしてあげなきゃ」
 ティエルが男に駆け寄った。男の顔には脂汗が浮いている。
「これ、先輩が?」
「いや……元々負っていた傷が開いたんだろう。俺は……、全くこいつの相手にしてもらえなかった。こいつの剣は、少しも本気ではなかった」
 ガナッツは気絶した男を抱えて立ち上がった。アシュリオも手を貸す。
「私の家のほうが、傭兵事務所より近いわ。早く連れて帰りましょう」
 こうして、畑荒らしは傭兵事務所の手で逮捕されたのだった。


 あいにく、治癒魔法が使える者がいなかった。ウェストン邸の客間を借りて、男の手当てをすることになった。この男の傷口に、何時間か前にむしりとられたと思われるヤクソウタンポポの葉が張り付いていた。傷は少しましになっていたようだが、ガナッツと交戦した際に再び開いてしまったようだ。
 ほどなく、男はゆっくりと目を開いた。瞼が開かれるに従って、常緑樹色の瞳が、きらきらと輝く。彼はまだ寝ぼけているような、穏やかな表情をしていた。
「気がついたか? お前は俺たち、傭兵事務所によって逮捕された。理由は分かるか?」
 ガナッツがゆっくり話しかけたが、男はまだ言葉が分からないようで、手を振ってガナッツの言葉を制止した。これでは尋問ができない。
 すると男は自分の耳を触って何かつぶやいた。耳には、白いピアスのようなものが付いている。
「……俺の言葉が、分かるか」
 その途端に、今まで全く理解できなかった男の言葉が、どういうわけかアシュリオたち全員に通じるようになった。
「すまない。早くこうすればよかったのだが……何しろ、余裕がなかった。翻訳機能を使うのは結構体力を使う。俺は連合大宇宙軍大佐ゼノ・ヴィッド」
 ゼノ、と名乗った男は、呆然としているアシュリオたちに穏やかな声で話しかけた。低いが少し甘い、とても心地よい声だ。
「手当てをして頂いて感謝する。革新軍との戦闘中に負傷し、かの場所に墜落したようだ」
 ゼノは表情に乏しく、淡々と話を続けた。だがその内容は、アシュリオたちにはいまひとつ掴めない。アシュリオとガナッツは顔を見合わせた。「連合大宇宙軍」も「革新軍」も、一国の王子だった人間と、騎士団長だった人間にさえ、全く聞き覚えのない名前だ。
「まさか連合大宇宙軍を知らないのか? 世界中の国々が共立している軍だぞ」
「そんな軍隊は聞いたことがないね。だいたい、宇宙軍って何? 宇宙で戦争をする軍隊だとでも言うのか?」
 アシュリオが冗談めかして言ったが、
「当たり前だ。肉を売っていない肉屋があるか? それと同じことだ」
 とあっさりゼノは肯った。
「それより、ここはどこなのだ。今朝方まで、俺はスペース・アメリカに居たはずなのだが」
「……それも聞いたことのない地名だ」
「地名? 宇宙に浮いている都市の名前は地名とは言わない気がする」
 ガナッツはすっかり閉口した。まったく話が噛み合わない。ゼノは畑荒らしの犯人であるにもかかわらず、のんびりとしているようにみえた。
「ゼノ。君は自分の状況がよく分かっていないようだ。君は我々に逮捕されているんだぞ」
「逮捕?」
 初めて、ゼノがかすかに驚いたような声を出した。
「あなた、うちのヤクソウタンポポの畑を荒らしたでしょう?」
 ティエルが割って入る。
「あなたが摘み取ったのは、野生のタンポポじゃなくて、ヤクソウタンポポっていうの。耕作人を雇って栽培しているものなの。だから、勝手にちぎったり、傷口に塗りつけたりしたら、本当はいけないのよ」
 彼女はゼノの話の意味不明さに全く頓着していないようだった。ある意味すごい、とアシュリオは思った。
「……そうだったのか。道理で、タンポポにしては強い薬効反応が出るわけだ。それは済まなかった」
 ゼノはあっさりと謝った。クレシア島の名産がヤクソウタンポポだということも、彼は全く知らないようだ。
「ま、でもひどくケガしてたみたいだから、それはもういいわよ。お父様もきっと許してくれるわ」
 アシュリオもガナッツも、これには同意見だった。
 ただ、そう簡単に許せないこともある。
「畑を荒らしたことはともかく、問題は、村人を襲ってケガをさせたことだな」
 ガナッツが本題を切り出す。
「……村人を、襲った? ……俺が、か? 馬鹿な」
 ところが今度は、ゼノは首を振った。
「ヤクソウタンポポをちぎっているところを村の若者に見つかったから、襲いかかったんだろう?」
「そんなことはしていない」
 ゼノはきっぱりと否定した。
「そもそも、ヤクソウタンポポとやらを野草だと思い込んでいた俺が、村人を襲うわけがないだろう。野草を摘むのを見られたところで、何も困らないじゃないか」
 そう言われれば、その通りだとは思う。しかし、野草だと思い込んでいた「ふり」をしているだけかもしれない。この怪しい軍服の男をすぐに信用しろというほうが無理だった。
 ガナッツが黙って考えていると、ゼノが立ち上がった。
「おい、どこへ行くんだよ」
 アシュリオが呼び止めたが、ゼノは気にしていない。
「村人を襲ったという真犯人を捕まえればいいんだな。そうすれば、俺の疑いも晴れる。心配するな、おかげで傷はすっかり良くなった」
「そうじゃなくて、お前は逮捕されて……」
 ゼノはドアではなく、出窓を開けた。土足で窓のへりを踏みつけると、彼は白いマントをはためかせ、まるで鳥のように上空高く飛び去ってしまった。

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2010'08'16(Mon)23:26 [ 創作日記 ] . . TOP ▲